ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
《アッシュside》
バツが悪くなって、もう一度酒に手を伸ばすと横からヒョイとオッサンに奪われる。
「ニューヨークに戻るんだな?だからエイジを日本に帰そうとしたのか」
「生き延びるチャンスが1番少ないからな」
「…お前、今ニューヨークへ戻ったら殺されるぞ」
「ここにいたってそれは同じさ、直に追手はくる。ニューヨークがディノのホームグラウンドなら、俺にとってもそれは同じさ」
「どうしてもヤツと刺し違える気か」
「俺はもうこれ以上逃げ隠れするのは性にあわない」
「…負けたぜお前にゃあ!俺もニューヨークへ行くよ。お前がグリフの弟だった…それだけでなにか因縁めいたものを感じるよ。例のデータはニューヨークトリビューンの局長に預かってもらう。文句は言わせねえぞ、これが俺のやり方だ。必ず本当のことを突き止めてやる」
「………」
ふとユウコに目を向けると、起きてはいるもののボケーッと一点を見つめていた。
「おい、ユウコ」
『…ん?』
「大丈夫かよ」
『うん…あっついのと、喉痛いくらい』
「ばかだな」
『……アッシュごめんね』
「なにが」
『いつもアッシュばっかり嫌な役目…』
「ばーか、気にすんなよ」
『ほんとはさ、なんでも代わってあげたいのに…』
「…もういいって」
『エイジがいなくなるの…寂しいね』
「…ああ」
『私ねエイジのこと、お兄ちゃんみたいって思ってたんだ…お兄ちゃんがいたらこういう感じなのかなって』
「…うん」
『“家族”がいるってさ、こんなに心強いんだね…私知らなかった。エイジが帰っちゃったら、寂しいな』
ーーお前には俺がいるだろ?
そう言おうとして、俺は口を噤んだ。
俺はエイジのようにユウコに接することはできない。
あんなにユウコを笑顔にさせることはできない。
…俺はエイジには敵わない。
そう思ったから。
「なーにまるでひとりぼっちになっちまうみたいなこと言ってんだよ、ユウコ〜!お前にはアッシュがいるだろうが!」
「…」
心を読んだかのようにそう言ったオッサンを睨みつける。
『…うん、でも……その…』
ユウコは顔を突っ伏して、何かを言いかけたまま黙ってしまった。
「……先に戻ってる」
かろうじてそれだけ口にして、俺はキッチンを出た。