ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
《アッシュside》
イベは忙しなくスマホをいじり、どこかへ何度も電話をかけている。
「…………あっ、もしもし!?ああ、そうだ…うん、うん、そうか!おかげで助かるよ!…わかった、頼む」
「出版社と連絡がついたのか?」
「ああ、なんとかね。向こうから日本領事館と移民局にかけあってくれるそうだ」
「そりゃあよかった、一安心だな」
俺は今後のルートをスマホの地図で見ながらオッサン2人の会話を聞いていた。
ビザの件か。前に1度話題にあがってから、色々ありすぎて流れてたからな。
「……すまない、途中で手を引くようで気が重いよ」
「なあに、気にするな!こっちこそ悪かったと思ってるんだ……でも、エイジは納得するのか?」
「それを考えると頭が重いよ…下手に話したらまた逃げ出しかねないからなぁ」
「俺が話してやってもいいぜ」
「え?アッシュが?」
「言いにくいことをはっきり言ってやればいい。お前は足でまといだって」
「そ…っ!そりゃあひどい!」
「アッシュ!そういう言い方はないだろう!今まで一緒にやってきたんだぞ!」
「甘ったれたこと言ってんな。ここから先はどうせ修羅場なんだ…役に立たないヤツは少ない方がいい」
「…このクソガキ!なんてこといいやがんだ!」
「……」
「おい!まてアッシュ!」
「……マックス!アッシュは憎まれ役を買って出てくれてるんだよ…」
俺はエイジがいるであろう陽の落ちかけるバルコニーに足を向けた。
そこにエイジとユウコはいた。
2人で並びゲラゲラと何かを楽しそうに話している。
そんな姿を見ても以前のようにモヤモヤするようなことはなくなった。エイジがきてユウコはよく笑うようになったが、それは甘酸っぱいものではなく、まるで同郷の兄が出来たかのような雰囲気だったから。
すると、野うさぎが遠くの気配を感じ取ったようにユウコがくるりと振り返った。
『あ!アッシュ!』
「え?…あ、ほんとだ!キミすごいな、よく気が付いたね」
『アッシュ、どうかしたの?』
「……お前、席を外してくれるか?」
『ん?…うん、わかった』
ユウコは俺がこれから何を話すのか分かったような目をして、部屋の中に戻っていった。