ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
《アッシュside》
俺がリビングに戻ると、ユウコとエイジがユーシスを囲んで談笑していた。
『ユーシスさんはこの中国茶が毎日飲めるんですよね、羨ましいなぁ』
「そう、ですか?」
『はい!私こういう深い味のが飲みたくてつい長い時間茶葉をつけちゃうんですけど、全然こうならないんです。つければつけるだけ濃くて渋い味になっちゃって…だからどうせ苦いのならコーヒーでいいかって毎日コーヒーばかり』
「ふふ、面白い人ですね…お茶の淹れ方くらい僕が教えて差し上げますよ」
『えっ、本当ですか?』
「ユウコいいなー、僕も知りた…ってあれアッシュ?キミいつからそこにいたの?」
『あ、アッシュ!アッシュも中国茶もらったら?すごく美味しいよ』
「………」
『…アッシュ?』
「…なにか?」
「っ…あ、いや別に……」
ついまじまじとユーシスの顔を見てしまった。
「はい、スウルーさんが淹れてくれたよ」
ふと視線をあげると婆さんは頭を下げて奥の方へ行ってしまった。
近くの椅子に座り、コップに口をつける。
「…ッアチ!」
「中国茶は高温で淹れるのが一般的なんです。高温であればあるほど茶葉の渋みが出やすいのですが、短時間だと旨みは出にくい。それぞれに馴染んだ感覚があるものなので難しいですが、まあ大体85℃くらいがおすすめですね」
『85℃…』
「ふうん、チャイニーズは随分と繊細な舌をお持ちなようで」
「あれ?そういえばショーターは?」
「疲れたみたいだったからな、まだバルコニーだと思うぜ」
「僕呼んでくるよ」
「あ、僕が行きます。同郷ですし、少し話をしてみたいので」
そう言ってユーシスは席を立った。
「…随分楽しそうだったな」
「ユーシスがお茶の淹れ方を教えてくれるってさ」
「お前…ンなもん知りたいのかよ」
『え?だってアッシュ、前に私がお茶淹れた時不味いって言ったじゃない』
「そうなの?」
「ああ、たしかにあれは渋すぎて頭が痛くなる味だった」
『…今度は多分失敗しない』
「ああそう?そりゃあ、楽しみにしておくよ」
熱さに舌が慣れてくれば、鼻に抜ける香りが爽やかでたしかに美味い。チャイニーズの文化も悪くねえな、とユラユラ揺れる茶葉を見て思った。