ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第20章 Los Angeles
気まずそうにあたふたするロボさん。
この空気を変えたくて私は必死に言葉を探した。
『あ………あの、』
「おばさん」
突然口を開いたアッシュが何を言ったのか、私は最初理解が出来なかった。…だけど思わずカチャンと食器を鳴らしたロボさんのすごい形相を見て、ようやく理解する。
「お…おまえなんてことを………」
「おーばーさんってば!」
ピキッと青筋を立てたジェシカが振り替えりアッシュの元に歩み寄る。
「…それってあたしのこと?」
「ほかにだれがいるのさ。マスタード取ってくれない?“おばさん”」
テーブルの上のマスタードを乱暴に手に取ったジェシカに、私はショーターとお互いに向かって早く止めろ!と口をパクパク動かした。
バンッ
マスタードをアッシュの前に叩きつけたジェシカ。
「…いいタマね、あんた。あの子のことであたしを責めてるつもり?おあいにくさま!あんたみたいな“チンピラ”に口出しされるいわれはないわ」
「ふん…いいタマはお互いさまじゃねえか」
腹いせのようにブチューッと皿にマスタードを出したアッシュに、ロボさんは小さくなって「ほんとにすまん…」と呟いた。
「マイケルにちゃんと説明するんだな、父親としての義務だぜ」
「シュンイチ…ああ、わかってるさ…もちろん…」
寂しそうな顔をしたマイケルを思い出して、胸がギュッとした。
私とは違う孤独を、彼はきっと感じているんだろうな。
『………』
さっきはそんな顔を見て抱きしめずにはいられなかった。
大丈夫だよ、きっと大丈夫だから…そんな私の思いが伝わってたらいいなと思う。
ガタッと椅子を鳴らしてアッシュは立ち上がった。
「…ふん、だらしねーの。車に酔ったりそわそわしたり、どーも様子がおかしいと思ったら…別れた女房に会うのがそんなに怖いかよ!」
『アッシュ…』
「ったくどいつもこいつも、親なんてのにはロクなヤツがいねーな!子どもってのは親を選んで生まれてくるわけじゃねえってことわかってんのかよ、ハズレだからとりかえてくれってわけにゃいかねーんだぜ」
「よーく聞いとけよ、マックス」
「……ハイ」
アッシュはマイケルと自分を重ねているように見えた。
そんなアッシュの言葉が、ロボさんにはとても響いているようだった。