ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《英二side》
ユウコの震える手に包まれた写真は、きっとついさっきまで話していたお気に入りの写真だったのだろう。
その証拠に先程まで悲しみに溢れた表情をしていたのに今は耳まで真っ赤だ。
自分との写真を大切そうに抱き締めるユウコをアッシュは今どう見ているんだろう、と顔を上げる。る
「……」
その表情は僕の想像していたものと180度違っていた。
緑の目がふっと移る先を見てハッとする。
…そうか、キミはユウコのお父さんの手紙を気にしていたのか。あの数ページに何が書いてあったのか、ユウコがどう思ったのか、気になって仕方ないんだな。
助け舟を出そうと、スッと息を吸った時
『…あのね、アッシュ』
ユウコは小さな声でアッシュを呼んだ。
「…ん?」
『パパ、私のことを捨てようとしてた訳じゃなかったんだって』
「……」
『私のこと、ちゃんと愛してくれてたんだって…』
「…そうか」
『ずっとあの日を後悔して、辛くて仕方なくて…死んだ私のところに行こうとして…っ…それで、…パパたちは…じ、…自殺』
「ユウコ、わかった…もういい」
『でも…わたしは後悔してないの…!アッシュとあの夜に街を出たこと』
「…っ」
『私たちが街を出なければ、あの後あんなに辛い目に遭うこともなかったし、パパとママが自殺することもなかった…そうわかっても、私は間違ったことしたって思わない…悲しいし、苦しいのに後悔はしてないの。私…変かな、ひどいヤツだよね…』
僕やショーターは知ってる。もし2人があのタイミングで街を出ていなかったら、アッシュは親戚のところへ預けられて離れ離れになっていたかもしれないことを。
2人はあの時同じ選択をしたから今一緒にいるんだ、例えその後にどんな地獄をみていたとしても。
「…奇遇だな、俺も同じさ」
『っ…!』
「これまでに後悔したことも、今後する予定もない」
その言葉に驚いたように顔を上げたユウコ。
2人はまるで磁石のように体を寄せた。
「…ダイジョウブ、俺も同じだから」
ユウコの手を包みながら優しく手紙を奪ったアッシュは、彼女の背中に腕を回しビリビリとそれを破った。
ハラハラと舞う紙切れは、まるで2人の古いしがらみの1つを清算しているかのように見えた。