ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
手紙を読み出したユウコを俺たちは何も言わず見守っていた。数枚に及ぶ手紙は一体どんな内容なのだろうか。ゆっくりと文字を追う目には驚きや悲しみの色が滲み出す。最後のページに差し掛かった時、こいつの正面に座っていた俺だけがあることに気が付いた。
たった今、ユウコが後ろに重ねた最後から2枚目のページの裏になにか文章のようなものが書いてあった。
「……?」
俺は、じっとその文章を見つめる。
ーーアッシュ,
ユウコの傍らにはきっと今もキミがいるだろう。
いつまでもユウコを縛りたくない。
この手紙はキミの手で破り捨ててくれ。
アッシュ…娘を任せたよ。
「…ッ」
俺は思わず手で顔を覆った。
これを見て、自殺すると決めてから書いた手紙なのだとすぐにわかった。言わば、これは遺書だ。
「…アッシュ?どうしたの」
「……いや、」
やがてユウコはガタガタ震える手で手紙を折りたたんだ。
そして、丁寧にそれを封筒に戻した。
「…読み終わったか?」
『ぅ…っ…』
コクンと頷いたのを見て、俺はユウコの手から手紙を奪って立ち上がった。
『…な、に?』
不安そうな顔で俺を見つめるユウコから体を背けて、指先に力をこめる…が、破ることが出来ない。ふいに親父の血が目に入る。
「………」
『アッシュ?』
こいつにとってこの手紙はどんな存在になるのだろう。こいつの親父さんの言うように一生縛るようなものになり得るのだろうか?
…おじさん、あんたはユウコに一体どんな言葉を遺したんだ?
俺はそう問うつもりで封筒をピンと指で弾いた。
すると、
…なんだ?
普通の紙ではないなにかの存在を感じた。
「この封筒、手紙以外にもなにか入ってたのか?」
『え…?わからない』
「……ほら」
手渡すとユウコは再び封筒を開けた。
『え……っ!?』
目を見開き、口をパクパクとさせるユウコ。
「ん?何?どうしたんだよ、何が入ってたって?」
「え……写真?あれ!これってもしかして子供の頃のアッシュとユウコ?!」
「ひぇー、お前らガキの頃からおっそろしー完成度だな!」
「っ…パパ…ありがとう…」
ユウコは何かを小さく呟いた。