ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
ーー親愛なるユウコ
これが何通目の手紙なのか、私はいよいよ数えることが出来なくなってしまったよ。私はキミがいなくなったあの日から、幾度となく大切な思い出を振り返り、まるで作家にでもなったかのようにキミとの日々を手紙に書き綴ってきたから。
今までの手紙もアッシュのパパから受け取ったかい?もしキミがこの街に戻ってきたとしても、きっと我が家をノックしてはもらえないだろうとカーレンリースさんにお願いしていたんだ。
だけど、それもこの手紙で最後にするよ。ユウコ、キミへの最後の手紙は謝罪と嘘偽りのない真実を綴ることにする。いいかい、ここに書いてあることがすべてだ。
まずはじめに。ユウコがこの手紙を読んでいるということは…キミのパパとママはもうこの世にはいない。ユウコがとても辛い経験をしたあの1件のあと、ママの心のバランスが崩れてしまったことは覚えているかな?明るくて優しかったママがまるで別人のように変わってしまって、きっとユウコは驚いただろう。
…ユウコ、私はあの夜にトイレか何かに起きたキミの姿を僅かに開いたドアの向こうに見た気がしたんだ、でもきっと気のせいだろうと思い込んでしまった。実際は気のせいではなく、キミはあの夜私たちの会話を聞いていたんだね?…もしそうなら、謝りたい。あれは全てが誤解なんだ。
ママは心の不安から寝つきが悪くて、寝る前に睡眠導入剤を飲んでいた。薬が効き始めて寝付くまでの数分、過激な発言をすることがよくあった。最初は私も戸惑ったが、それは薬の副作用だということがわかった。それから私はその数分を軽く受け流すようにしていたんだ。…あの日もそうだった。またいつもの症状だと、私はママの心を落ち着かせるような言葉を口にした。それをキミは聞いたんだ。意図を知らず真正面から受け取ったキミにとって、あれがどんなに残酷な言葉だったか、今でも胸が苦しくて私はあの日をずっとずっと後悔し続けている。
あの夜、私は何故か寝付けず明け方になってユウコの寝顔を見に部屋へ行った。…その時、もうキミはどこにもいなかった。