ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
『あー…どんなのだったかな、忘れちゃった』
私はそう言いながらとてつもなく悲しい気持ちになった。
だってあの写真は…特別だったから。
それは昔誕生日パーティをした時のもので、私もアッシュもフォーマルな装いで2人並んで写っていた。その日同じアングルで何枚か撮ったけど、中でもお気に入りだったのは…私がアッシュの頬にキスをしている写真。
両親が私のために選んでくれた素敵なワンピースに身を包み、ごちそうに囲まれて、幼いながらも好きな人と一緒…それはまるで夢のような1日だった。
その後の地獄のような日々を思うと、もう二度と戻らないあの幸せな瞬間がひどく愛おしくて大切で胸がギュッと締め付けられる。
…本当に、忘れたことなんて1度もなかった。
「…ユウコ?」
『…えっ?』
「大丈夫かい?キミ…また泣きそうな顔してる」
『っ…あはは! 変なの!私の涙腺、バカになっちゃったみたい』
「………」
よほど痛々しく見えているのだろう、私の冗談を笑う人は誰もいなかった。
『……ッ』
私はその場の空気に耐えられなくなって、ついに封筒をあけた。