ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
『ハァハァ…ッ』
「ユウコ、大丈夫かい…?」
『…うん…平気、…だよ』
エイジはきっと息を荒らげていることに対して大丈夫かと聞いたわけじゃないんだろう。その証拠に、平気だという返事を聞いてもその顔は晴れない。
「…アッシュ、ごめん」
「なにが?」
「あの時、僕が声を掛けたからあんなことになっちゃったんだろ…?」
「いや、エイジのせいじゃないさ。遅かれ早かれ乗り込むつもりだったんだ。初手が変わったくらいで結末は変わらなかったぜ、きっと」
「……」
深く息を吐く音に目を向けると、ユウコは血で汚れた封筒を手にしてじっとそれを見つめていた。店を出てくる前に親父とユウコが話していたのはその手紙のことだったのか。
「ユウコ、それって…おまえの親父さんのか?」
ショーターが声を掛けた。
『…うん。あ…ふたりともさっきは色々と驚かせちゃってごめんなさい…なんだか、自分でもどうしてあんなことを言ったのかよく分からなくて…』
「バーカ、気にすんなよ!…アッシュと話して少しは落ち着いたんだろ?」
『うん』
「なら良かったよ」
「…中、見ないのか?」
『何が書いてあるのか、ちょっとこわくて…』
ユウコはずっと親父さんに捨てられたと思って生きてきたんだ。そんな親父さんが遺した手紙を怖いと感じるのは当然か…。
『…そういえば、アッシュ?』
「うん?」
『私のパパとママが、もういないかもって最初に気付いたのはどうしてだったの?』
「ああ…、昔俺がおまえの誕生日プレゼントに写真立てを贈ったことを覚えてるか?」
『え?うん、もちろん覚えてるよ。私、部屋の机の上にお気に入りの写真を入れて飾ってたもん』
「……それが、俺の部屋の机にあった」
『えっ!?』
「真っ黒に焼け焦げたただの四角い黒い物体だったけど…かろうじて残った四隅の金具にどこか見覚えがあってな。もしそれが俺の思うものなら、あの家に良くないことがあったんだろう…って」
「え…あっ、あれは写真立てだったんだ」
「ああ」
『そっ、か…じゃああの写真も、燃えちゃったんだ…』
「どんな写真を入れていたの?」
『…えっと、』
「?」
ユウコは一瞬俺を見て、すぐに目を逸らした。