ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
「…もしまたいつかどうしても死にたくなったらその時は言ってくれ。一緒に死んでやる」
『っ!…アッシュが死ぬはやだよ…』
「…じゃあおまえは俺より生きるしかないな。俺は、おまえがいない世界で生きていく自信がねえよ」
『…えっ…でも、』
心からその言葉が嬉しくて仕方ないのに、素直に喜んでいいのかわからない。それはきっとさっきまでのことがまだ頭から消えていないから。
…どうしてアッシュは今更私にこんな夢みたいなことを言ってくれるのだろう。
「“でも”、なんだよ」
『だって私!……さっき、ひどいことをいっぱい言ったんだよ…アッシュにも、…ジェニファにも』
「……さっきのことは、もう忘れろ」
『…え?』
「ぜんぶ混乱してたんだろ?おじさんやおばさんのことを知って…自暴自棄になったんだろ?…あの時おまえは俺に気持ちはわからないと言ったけどわかるよ。俺にとっての唯一の家族は…グリフィンだけだったから」
『…っ…!』
「昨夜はまだもしかして、というくらいだった。でも気になって今朝早くにここに来て…俺の嫌な予感が当たっていたことを知った。だから、今後もう二度とここには来ないだろうと思ったから…おまえが真実を知らないままに、傷つかないで済むならその方が良いと思った。黙ってて悪かったな…」
そう、だったんだ…
『ううん……私こそ、さっきはあんなこと言って…ごめんなさい…』
「ユウコ、…俺たちが過ごしてきた時間に嘘なんてなにひとつない。そうだろ?」
『……っ、』
「大丈夫、ユウコ…ダイジョウブだよ…俺がいる。おまえはひとりじゃない。俺は何があっても絶対におまえをひとりにはしない」
『……ッ…アッシュ』
『辛かったな…本当の両親とのことも、あんなふうに自分のせいだとずっとひとりで苦しんでたのか?なあ…おまえのせいじゃない、な?おまえのせいじゃないよ」
アッシュの言葉は魔法みたいに私の心の波を鎮めていく。
『ねえアッシュ…っ…わたし、ジェニファに謝りたい……パパの手紙も、ちゃんと読みたい…』
「…もう少し、泣き虫が落ち着いたら戻ろうぜ」
泣き虫ユウコ、昔アッシュは泣いてる私のことをそう呼んでたっけ。
『うん…アッシュ、
私を助けてくれて…ありがとう』
「……ああ」