ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
「今のキミと同じだろ…いや、ユウコは今のアッシュよりも冷静じゃなかったな……僕の言いたいこと、わかった?」
「!」
ようやく俺の思考回路が戻ってきた。
…冷静になって考えてみれば、あいつがあんなことを軽はずみにするはずがない。ましてや俺に自分を買えだなんて…。
つまりユウコは、それほどまでに追い詰められていたということだ。
「…っ……あぁ」
「…ねえアッシュ、僕には何故ユウコがあんなことを言い出したのかわからない。ユウコがこだわる“ふたり”や“ひとり”の意味も。ユウコの傷はきっと君にしか抱きしめてあげられない。そうだろ?だってキミはずっと言ってたじゃないか。俺がユウコを守るって。それって、今みたいな時のことじゃないの?ユウコが1番辛い時に…キミは彼女の隣にいてあげないの?」
そうだ、その通りだ。
あいつのことは俺が守ると決めたんだ。
「……ッだけど、」
あいつはそれを望んでいるのか?
“アッシュなんか…大っ嫌い!!”
せっかく戻ってきた冷静さを惑わすように、その言葉が蘇る。
だが、
俺はそう言った瞬間のユウコの顔を思い出した。
あいつは悲しそうに、苦しそうに、絞り出すようにそう言ったんだ。
言葉にはしなかったが、
…あれは間違いなくあいつの最大級のSOSだ。
泣いている。
ユウコが…今もひとりで。
俺は堪らなくなって床を蹴った。
そして勢いよくドアを開ける…と、
「……ショー…ター?」
「おっせーよ、“王子様”」
「……な、」
「どこかで“姫”の泣いてる声がするぜ?」
「……ッ」
「早く行ってあげて、アッシュ。ユウコは誰より…キミに来て欲しいはずだよ」
「…ショーター」
「あんだよ」
「……やっぱり、あいつはやれない」
「クソッ!…んなこたァわかってんだよ、ったく!」
走り出した俺の背中をショーターはバシッと叩いた。