ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
『…さようなら』
「!」
酷く弱々しい声で別れの言葉を放つユウコの腕を、俺はもう一度掴んだ。
『やだ…離して…』
「どこに行く気だ」
『……探しにいくの』
「なにを?」
『今晩私を買ってくれる…お客さん』
「…お前、ふざけるのも大概にしろよ!」
『ふざけてなんかない!ねえもういいじゃんほっといてよ。私のこと、嫌いになったでしょ?もう一緒にいたくないでしょ?…わかってるから、離して…!』
「勝手に決めんじゃねえよ!」
『…っ…じゃあ、アッシュが私を買ってよ!』
「ッ……お前…!」
『そうだよ…そう、してよ…いっぱいサービスしてあげるからさ…』
「……本気で言ってんのかよ」
『っ…うん』
スゥッ…と目を閉じてさっきと同じ顔つきになったユウコが、するりと俺の体をいやらしく撫でた。そして甘えるように胸に頬をすり寄せながら上目遣いで俺を見上げる。
『“お客さん”…今夜を、一生忘れられない夜にして?』
ーーーーッ……!!
歯が軋む
「……っけ、んな…」
やめろ、やめてくれ
お前のそんな目、見たくない
「ふざけんなよテメェ!本気だと…?いい加減に目を覚ましやがれバカヤロー!!俺はお前とそんな関係になんて…死んでもなりたくねェんだよ!!!」
『……っ!』
「なあ、言えよ…悲しいって」
『……』
「苦しい、助けてくれって…そう言ってくれよ」
お前がそう言えば
俺が助けてやる
だから、それを…望んでくれ。
『…い、わない』
「どうしてだよ!?…言えよ!早く言え!!」
『もうずっとひとりぼっちだった私の気持ちなんてなにも分からないくせに!…同情?いらないよそんなの……もう…っき…らい、
アッシュなんか…大っ嫌い!!』
「!」
またボロボロと大粒の涙を流しながら、ユウコは勢いよく店を出ていった。