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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第19章 Cape Cod


早くこの場から立ち去りたい。
早くアッシュの前から消えたい。
早くお前はひとりじゃないと教えてほしい。

本当はお金なんかいらない…この身体と引き換えに私がほしいのは、誰かの温もり。ひとりじゃないという証。

昔、客を取らされていた時に私は知った。
あの行為が終わるまでは、男はみんな無条件に私を求めてくると。

ひとりにならない方法は、これしか知らない。

だってひとりになったことなんてなかったから。
ずっと、アッシュと“ふたり”だったから。

でもアッシュは元々ひとりなんかじゃなかった。
大切に想い、想ってくれる家族がずっとここにいたんだ。

それなのに私が勝手に思い上がって引き離して…

最低だ、最低だ…ッ!!



「おい…ユウコ、お前今すぐそのふざけた真似をやめろ」


その地を這うような低い声に、少し狼狽える。
ああだめだ、早く行かなくちゃ。そうしないと、もう立ち上がれなくなってしまう。このタイミングを逃したら、もうきっと離れられなくなってしまう。あんなことをしておきながら、それでも近くにいたいなんて、そんなの絶対に許されない。



ーーアッシュとはもうここでお別れなの?

…うるさい

ーーこんなにずっと、大好きだったのに?

うるさい、うるさいッ!!!



…グサグサとナイフでしつこく刺されるようなこの胸の痛みを、早く別のなにかで塗り替えてしまいたかった。

私が男の手を引き足早に歩き出すと、突然その手が離れ後ろでドスンッという音がした。

振り返ると男が足の脛を押さえながら倒れ、声も出せず蹲っていた。


『?!………だいじょ…っ痛、!』


駆け寄ろうとした私の腕をアッシュがものすごい力で掴んだ。

『…い、…ッたい……離して!』

「ユウコ……俺の目を見ろ」

『いや…っ!早く離して!』

「…見ろって言ってるのが聞こえないのか?!」

もう片方の腕も捕まれ、向かい合ったまま完全に身動きが取れなくなる。声が…近い…私は必死に顔を背けた。

『……ッ』

「なあ…お前さ、目を見れないってことは、自分がしたことの意味をわかってるってことだよな…?なあ?!何とか言えよ!」
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