ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
ユウコとジェニファの関係があまり良くないことに気がついたのは、この街に到着して店に寄ったあと俺の家に入ろうって時だった。2人の間には何故か良くない空気が漂っていた。…主にユウコが、だ。
ひどく混乱していたのは見てわかるが、どうしてお前は突然あんな事を…。
俺は酔ったオヤジを睨みつけ、長いため息を吐いた。
「……ユウコ、とりあえずお前一旦落ち着け。また冷静に考えられるようになったらさっきの話の続き、を……って、え?」
ふと体を向けると、ユウコは声も出さずにボロボロと大粒の涙を零していた。まるで、この世の終わりでも見たかのように。
歪んだ眉や、震える唇…
そのあまりにも悲痛な泣き顔に俺は息を飲んだ。
「……おい…ユウコ?」
『…わた、し…ひと、り…ずっと?…うそ、だ』
「…え?」
途切れ途切れに何かを口にしたユウコは、突然頭を抱えてガクンッとしゃがみ込んだ。
「!……っ…どうした?」
俺が数歩近寄った時、こいつはまだ頬に涙の残る顔をスッと上げた。そしてその虚ろな目が光を持った瞬間、ガラリと様子が変わったようにゆっくりと立ち上がり先程こいつに迫った男の体に擦り寄りその手を握った。
『っ…あの、今晩…私を抱いてくれますか?』
「…………は?」
「おっ…?あぁ、そうしたいのは山々だが…生憎今日は5ドルしか持ってねえんだ」
『じゃあ今晩だけ、…5ドルでいいよ』
「本当か?!」
『…うん。ひとりに、なりたくないの…』
「っはは!お前、早く俺に抱かれてえって顔してるじゃねえか…?さすがだユウコ・テイラー、男を分かってる」
『…っふふ』
「………ッ…」
まるで娼婦のような顔つきで男を誘うユウコ。
ちょっと待てよ、意味がわかんねえよ。
お前は…なにしてるんだ?
肩なんか抱かれて、なにヘラヘラ笑ってやがる?
自分がなにを言ってるか分かってんのか?
「おい…ユウコ、お前今すぐそのふざけた真似をやめろ」
『……ねえっ、早く2人になれるところに連れてって?』
男にすり寄るこいつにただでさえ気が狂いそうなほど苛ついたというのに…
俺の言葉を無視して手を引き店を出ようとするこいつを見て、プツンと何かが切れる音がした。