ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
「名前はたしか…ユウコ・テイラー!」
「なっ、本当か?」
「…テイラー、だって?」
私の名前に数人が不自然に反応する。
「間違いねえ、俺の女を見る目は確かだぜ。それにしても、気の毒だったな。まさか両親が、
…家に火ィつけて自殺しちまうなんてよ」
『……え?』
「お、おい…イーサン、やめとけよ。さすがに酔っ払いすぎだぜ」
家に火?
自殺…?
両親って、私の?
パパとママのこと?
カウンターに目を向けると、みんな悲しそうに俯いている。
「……」
…アッシュは何も言わずに私をじっと見ていた。
今の話が事実だということが、嫌という程に伝わってくる。
……そうか、さっきからの違和感はそういうことだったんだ。
このことを、私以外のみんなが知っていたんだ。
「ごっ…ごめんよ、ユウコ。キミのご家族の話、実はさっき聞いたんだ…本当にごめん」
「そういやおめェ、あれから行方がわからないって話だったが、どうしたんだ?もしかしてまたこの町で商売始める気になったのか?どれ…いくら出しゃ相手をしてくれる?」
『…っ、』
「イーサン、その辺にしとけ!」
「おっと、参った…今日は5ドルしかねえや」
「…ッてめぇ!!」
次の瞬間、アッシュが勢いよく男の胸ぐらを掴んだ。
『!』
「うおっ…?!なにすんだ!っおいジム止めさせろ、こいつはお前のせがれだろーが!」
「ジム、お願い…早く止めて!」
「……」
アッシュのパパは腕組みをしたまま動かない。
すると、痺れを切らしたジェニファがついに大声をあげた。
「っ…アスラン!!離しなさい!!…申し訳ありません、うちの息子が」
ーーアスラン
色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、わけがわからないくらいに動揺している今。そのワードによって、ずっと感じていたこの女への嫌悪が突然脳天を突き抜けた。
そして、口が勝手に動き出す。
『……息子?』
「ユウコ…?」
『“アスラン”のこと、平気でずっと一人ぼっちにしてきたくせに…?』
混乱してる。
手が震えている。
近くの男の存在が怖くて、
突然パパとママの死を知って…
とてつもない怒りと孤独感が、
私を飲み込むように襲う。
言葉を吐き出す口を
…私はもう止められなかった。