ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
その手にはいくつもの封筒が握られていた。
「……ユウコ、」
私の名前を呼びながら一歩一歩近づいてくるアッシュのパパ。
『…なに?』
「これをお前さんに、と頼まれた」
『え?』
差し出されたそれに手を伸ばすと、アッシュに手首を軽く掴まれた。
『…アッシュ?』
「ッ、お前!」
そんな声が聞こえたかと思うと、差し出された封筒はアッシュの手の中にあった。封筒に書かれた文字を読んでいるアッシュ。
「それは、お前が触れていいモンじゃねえ!」
「……」
目が合うと、アッシュはそれを私に渡すべきか悩んでいるように見えた。
『…アッシュ、なんて書いてあるの?誰から…?』
誰から、
そんなことを聞いておきながら私には答えがわかっていた。だって、アッシュのパパに私に渡すように頼むなんて…そんなの、“パパ”しかいない。
でも、どうして…何のために?
私はその中身が気になるような、知りたくないような複雑な気持ちだった。
「……どうする?」
アッシュはそんな私の心の中を読んだようにそう聞いてきた。
『………えっ、と』
「アッシュ!お前いい加減にしやがれッ!それはな、」
「ジム、ユウコの前で怒鳴らないで、お願いよ」
『……』
カウンターの中から身を乗り出してあの女…ジェニファが懇願するような声を出した。
そこで私はこの場の空気の違和感に気がついた。
カウンターに座るみんなも、先程まで一緒に外にいたはずのアッシュも、さもこの封筒の中身を知っているかのような雰囲気なのだ。
店のドアを開けた時の視線だって、無理やりに笑ったエイジも、私宛ての封筒を取り上げたアッシュも考えてみれば全部おかしい。
え、なに?…これはどういうこと?
まるで私だけが状況を理解出来ていないみたいな、この変な感じは…。
「…ユウコ、聞いて?」
誰を見ても、眉を寄せて可哀想なものを見るような目で見てくる。なんで?どうして…。
「本当はあなたたちがここに来た時、すぐに無理やりにでも伝えるべきだったんだわ…ごめんなさい。実はね、」
何かはわからないけど、嫌な予感がする。
「…実は、
あなたたちがこの町を出ていった1年後に…」
『っやだ…やめて!聞きたくない!』
私は後ずさりながらドアに向かった。