ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
『……そう、なの?』
「悪い、」
『…どこまで?』
「………」
アッシュは答えなかった。
その意味は、きっとそれこそ“全部”なのだろう。
ディノの屋敷でのこと、
あのマンハッタンの劇場でのこと、
…それからの、私たちのこと。
エイジが全部を…知ってる?
『っ…でも、今まで誰にも話さなかったのに…どうして?』
「…俺にも分からない、どうして話したのか…どうしてエイジにならと思えたのか」
『…エイジになら、』
出会ってからエイジはいつの時も優しかった。だからいつ、どこで2人がそんな話をしていたのか今思い返しても検討もつかない。彼から同情の目なんて、感じたことなかった。
エイジになら、そう言ったアッシュの気持ちはなんとなく私にもわかる気がした。きっとアッシュがエイジに話したのは自然な流れだったんじゃないかと思う。私も、アッシュとのこと…エイジには色々話してしまったし。
「あいつに話したこと、お前に隠すつもりはなかったし…あいつにもそう言った。今まで通り普通にしてくれって」
『…そっ、か』
「…悪かったな、断りもなく」
『ううん…』
アッシュはあの出来事をどんな言葉で説明したのか、エイジはどんな反応をしたのか…気になることは沢山あるけど、申し訳なさそうに2度謝ったアッシュにこれ以上何も言えなかった。
気持ちのいい話じゃなかったと思うし、機会をみてエイジに私たちの過去を背負わせてしまったことを謝ろう。
『そ…そういえば、さっきショーターとイベさん帰ってきたよね?バッテリー見つかったか聞かなくちゃ…』
私は、小走りに店の前まで行きドアに手を掛けた。
少し重めのドアを開きながら中を伺うと、ギィッという音に反応したカウンターに並んで座るみんなが一斉に私を見た。
ショーターもロボさんもイベさんも、エイジも…なんだか悲しそうな顔で私を見ている。
『…なに?どうかした?』
「……あっ、え?いや…なんでもないよ」
エイジは無理やりに笑顔を作ってそう言った。
『え?…みんな、なんの話して』
突然支えていた重いドアが軽くなったと思ったら、後ろからアッシュがドアを開け私の背中をそっと押した。
「…ん?…なんだよ、この空気は」
「……」
その言葉にアッシュのパパが立ち上がると、一瞬奥の部屋に消えてまたすぐに戻ってきた。