ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《英二side》
「…でもなぜそんなに追い出そうとする?自分の息子だろう、可愛くないのか?」
「あんたはなんだ?なぜあいつにくっついている」
「俺は…イラクでグリフィンと同じ隊にいたんだ。彼とは、友達だった」
「……なにか飲むか、あんたたち」
「じゃあ、バーボンをもらおう」
コトン、と僕たちの前にお酒を置いて彼はゆっくり口を開いた。
「アッシュのヤツは2番目の女房の置き土産さ、あいつを押し付けて男と逃げやがった」
「…彼は故郷へ帰ってくることをひどく躊躇っていた…ただ家出したことの気恥しさだけとは思えないほどにな。いつもの思い切りのいいあいつらしくなかった…いったい何があったんだ…?」
「…あいつが7つの時、この…もうひとつ丘を越えたところに退役軍人が住んでてな…なんでも朝鮮戦争でかなり手柄をたてたそうだが…子ども好きの男でな、少年野球の監督をしたり…ここらのガキどもには結構好かれてた。あいつもその野球チームに入ってたんだが……ある時ヤツがひどい格好で帰ってきた。服は破れてあっちこっちアザだらけで…何があったのかひと目でわかったさ、あいつは何も言わなかったが…」
…アッシュから前に聞いた話だ。
「…警察に届けなかったのか?」
「警察?…ふん、 届けたさ…もちろん。嫌がるあいつの手を引っ張っておまわりのところへ連れていったよ。…そしたらおまわりのヤツなんて言ったと思う?「本当に彼だったのか」って。…ヤツは町の名士だからな。あげくの果ては「お前が誘ったんじゃないのか」…だとよ。7つのチビにだぜ?…あいつは診察台の上でなんにも言わなかったよ…ただでっけえ目ェ開けて俺たちのやり取りを聞いていやがった。…だから俺はヤツに言ってやったのさ、これからまたどっかのバカがお前をつかまえて妙なまねをしたら、いいから黙って好きにさせろ…そのかわり、終わったらカネをもらえってな」
「…そう、だったのか……そういや、ユウコは日本からきた幼なじみだって聞いたことがあったが…」
「ああ、ユウコは4歳の時に養子に貰われてこの町にやってきた。なんでも日本で交通事故で両親を亡くして孤児院にいたらしい」
「…なっ…!?…っ、かわいそうに」
「…近所だったのもあって、あいつらはいつも一緒にいた」
ふと顔を見ると、お父さんは少しだけ穏やかな表情をしていた。