ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《英二side》
ショーターと伊部さんがプロヴァンス・タウンまでバッテリーを見に行ってからしばらく、僕とアッシュとユウコはアッシュのお父さんの店でコーヒーを飲んでいた。
いつも通りたわいもない会話をしているのに、アッシュもユウコもどこか周りを気にしていて落ち着かない様子に見えた。…カウンターにお父さんがいるから、かな。
「…おかわり、飲む?」
「あ、ありがとうございます」
ポットを持ったジェニファが僕たちのテーブルにやってきた。するとユウコは不自然に頬杖をついてジェニファから顔を逸らした。僕は不思議に思って声をかける。
「ユウコ?コーヒーいれてもらう?」
『……』
なにも返答はない。
突然、どうしたんだろう。
ジェニファはその姿を見て、少し悲しそうに眉を寄せながら背を向けた…が、すぐにまた振り返って「あの」と声を発した。
「ユウコ……あのね、昨日も言ったのだけど…あなたに話さなくちゃいけないことが…」
『………』
「実は…その」
「ジェニファ、」
話を遮ったのはアッシュだった。
「時々向こうの家の中、風を通してくれてた?」
「…え?」
「助かったよ、ありがとう」
「……そう、それは良かった」
ジェニファはチラッとお父さんを見た。
「コーヒー、ご馳走さま」
アッシュが席を立つと、ユウコも続いて立ち上がった。
「…えっ、」
ついでもらったばかりの僕は慌ててコーヒーに口をつける。
「…今さら、なんで戻ってきた。お前はここにいない方がいい。わかってるだろ」
アッシュのお父さんの低い声が店に響いた。
…っ、なんでそんなことを言うんだよ…!
「…車が直ったらすぐに出ていくさ」
「あ…アスラン!」
『…ッ』
ユウコはジェニファをキッと睨みつけ店を出ていった。
気が付いたら僕は叫んでいた。
「あんな言い方ってないじゃないか!」
「英ちゃん…?」
戻ってきた伊部さんとショーターはこの時の僕の目に入っていなかった。
「なんでいないほうがいいなんて言うんだ!父親なんでしょう!?」
「…なんなんだ、このガキは」
「っ!」
「彼はアッシュの友達だ」
僕の肩に腕を回して、マックスがそう言った。