ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《マックスside》
「ヨッ」
車のトランクを持ち上げて中を見ると、まァ古い。
「…ハァ、大丈夫か?これ」
ガチャガチャとバッテリー部分を見てみるとどうやらこの長旅ですっかりイッちまってるのがわかった。
その時、こちらに向かってくるシュンイチが目に入る。
「あ?おぅシュンイチー!やっぱりバッテリーを交換しなきゃダメだー!ロサンジェルスまではとてももたん!……ん?シケた面だなァ、山猫小僧にでも引っ掻かれたか?」
「あぁ…図星だよ、見事にバリッとね。英ちゃんを甘やかしすぎるってな」
「ふゥん?でもエイジももう19だろ。確かに構いすぎるぜ?お前そもそもなんでエイジを日本から連れ出したんだ?」
「…緊急避難さ、あの子はああ見えて才能ある棒高跳びの選手だったんだ。それが怪我をしてそれ以来スランプになっちまってね、奨学金を受けてた関係で色々あってあの子はすっかり萎縮しちまって飛ぶことすら忘れちまった」
「……歌を忘れたカナリア、か」
「だから俺がひっさらってきたんだ。俺はもう一度あの子を飛ばしてやりたい、その為なら何だってしてやりたいんだ」
「なんでそこまでして」
「俺がカメラマンとして最初に認められた写真のモデルなのさ。だから言わば恩返しだな」
「ふっ、それは違うなァ…お前だって分かってるはずだぜ、お前は彼になりたかったんだろ」
「……ああ、多分。いや、きっとそうだな」
「アマデウス症候群だな、愛しくて愛しくて憎い!俺のアマデウス…!」
「ちぇっ!人のことだと思って〜!…ロスについたら俺たちは日本に帰るよ」
「まあ、仕方ないな…でもそれが本当にエイジのためになるのかな?」
「あの子を守るにはそれが一番だ、これ以上危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「そういう意味じゃないさ…分かってるだろ?シュンイチ」
サンドウィッチを頬張りながら、柄にもなく青い空を眺めた。