ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
家に戻り、俺はおやすみと言って階段を上がった。
兄貴の部屋からは相変わらずうるせえマックスのいびきが聞こえてくる。ショーターも静かに眠れないヤツだからエイジが気の毒だ。
まだ眠れる気がしなくて、俺は階段の1番上に座った。
公園でのユウコとの会話を思い返してため息をつく。
…最初は正直何事かと思った。
突然“今までずっと一緒にいてくれてありがとう”なんて言われたら誰だって別れの挨拶だと思うだろ。
そもそも、俺がお前を見捨てるわけない。
それに俺だってお前がいたから生きてこられたんだ。
今まで、だけじゃない。
「…これからも、だろ」
さっき言えなかった言葉を小さく呟く。
そういえば、あいつ昔の家を通りたいと言ったな。
まさかユウコがそんな提案をしてくるとは微塵も想像していなくて若干焦った。
あの時の俺はふいに机の上にあった焦げた四角い物体のことを思い出していた。
…あれが俺の考え通りのものだと仮定するならば、ユウコを連れてあのあたりには行かない方がいい。
とりあえず明日の朝にでも確認に行こう。
俺の思い過ごしならそれでいい。
「…寝るか」
色々なことが頭をチラついて、寝付けそうにはないがとりあえず横になりたい。
立ち上がり部屋に戻ると俺の布団には大の字で眠るショーターに追いやられたエイジが丸まって眠っていた。
「…はぁ、ったく」
俺はエイジと壁の間の狭いスペースに横になり目を瞑った。