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ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH

第19章 Cape Cod


「…は?」

『あの夜ここで、アッシュが一緒にケープコッドを出るって言ってくれた時すごく嬉しかった。それからニューヨークでも色々なことがあったけど…ずっと私を守ってくれたよね、ありがとう…こんな私なのに見捨てずにいてくれて、本当にありがとう』

本当はもっといっぱい伝えたいけれど、色んなありがとうの隙間に“大好き”が潜んでいるから、意図せずポロリとこぼれてしまいそうで言葉がつまる。

『まだ…あの、もっといっぱいあって…えっと…』

「……」

『アッシュ、たくさんありがとう…私、アッシュと一緒にいられて嬉しいよ。2人だったから…今まで生きてこられたんだって…心からそう思う』

「…突然どうしたんだ、おまえ」

『え?えーっと…、っふふ…あれ?ほんとどうしたんだろうね、私』

私が笑い出すとアッシュは前髪をかきあげて困ったような顔をした。そんな顔をしないでよ…私自身、まさかケープコッドの公園で夜中にこんなことを言い出すだなんて思ってもいなかったんだから。いや…この地だからこそ言えたのかな。


ディノの所を離れて以来、なんとも言えない距離が開いてこういう話を素直に出来なくなっていたから、なんだか心がスッキリした。

今までネガティブな思い出や感情にばかり囚われて、大切なことをたくさん見失っていたみたいだ。


今アッシュが隣にいてくれること、
1人じゃないことがすごく嬉しい。

“でも”や、“だけど”は、今は考えずにいたい。



「……さて、戻るか」

『あっ…』

「どうした?」

故郷に帰るとわかったときはあの家になんか、と思っていたのに何故か今ならもう少し前に進める気がした。


『あのさ…昔私が住んでた家の前、通ってもいい?』

「……」


『アッシュ?』

「…今日のところはまっすぐ戻ろうぜ」

『どうして?』

「だいぶ冷えてきたろ?…ほら、これ羽織っとけよ」

『あ、ありがとう』

「まだもう少しの間はここを出発出来そうにないってオッサンも言ってたし…また改めようぜ」

『うん…そうだね!』

私はアッシュが腰に巻いていた体温の残るジャンパーを羽織り、先に歩き出した彼の隣に並んだ。

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