ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
『わあ、星が綺麗』
「そうだな」
街灯が少なく高い建物がないこの地は一面に星空が広がって見えた。セントラルパークでも星は見られるけど、ここの美しさには敵わない。
…それにしても、アッシュとまた公園への道を歩く日が来るなんて思ってもいなかった。同じ背丈だったあの頃の無邪気な私たちはもういないけど、今のこの状況になんだか胸がぽかぽかと温かくなった。
しばらく歩いていくと
『っ…まだ、あった』
私たちの1番の思い出の場所が見えてきた。
心のどこかでもうこの場所は無くなってしまっているんじゃないかと思っていたから、ふいに目頭が熱くなる。それを隠すように私はブランコに向かって走り出した。
「あっ…おい」
『見て、アッシュ!あの時のままだよ!』
「…そうみたいだな」
ゆっくりと近付いてくるアッシュが少し驚いた顔をした。
『なに?』
「いや…お前も背が伸びてたんだなと思って」
『はあっ!?だから私もちゃんと伸びたってば!』
そう言いながら実は私もこのブランコがこんなに小さく感じるなんて…と思っていたところだった。
私たちはお互いによく使っていた方のブランコの前に立ち、そのロープに触れた。あの頃の私たちは楽しい時も、悲しい時も、嬉しい時も、苦しい時もここにいた。
そしてあの頃の私は、このロープを握りながら隣のブランコを気にしていた。ずっと、いつも…アスランのことだけを想って。
ごく自然に隣を見ると、パチッと目が合った。
『…っ』
トクンッと心臓がはねる。
月明かりに照らされたアッシュの髪や瞳は普段よりも数倍美しく輝いていた。
ああ…好き。
私はやっぱりこの人のことが好きなんだ。
まるで時が巻き戻ったように、
心から純粋にそう思った。
そして、湧き上がってくるアッシュへの感謝の気持ち。
「…なに?」
目を見つめたまま動かなくなった私にアッシュは優しい目をして首を傾げる。
『ねえアッシュ、』
背が伸びて、声も変わって…どんどん素敵な男性に成長していく彼に、私だけが取り残されていくような不安や焦りを感じた時もあった。
でも、ふとした時に伝わる。
何も変わらない、
アッシュはアスランのままなんだって。
『今まで私とずっと一緒にいてくれて
…ありがとう』