ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
あれから食事を終えて、それぞれ寝床についた。
ひとり1階に残された私も、ソファに置かれた毛布を広げゴロンと横になっていた。
ガタガタ…
強い風が、窓やドアを揺らし音を鳴らしている。
懐かしいな、この音。
目を閉じると、風の音と共に古い記憶がじわじわと心に吹き込んでくる。
昔はこの風の音を怖いと感じていたっけ。
布団に潜り早く朝になって、と泣いたこともあった。
『…ふふ』
子供だったあの頃の自分を思い出して笑みがこぼれる。
すると、
「…なに笑ってるんだ?」
と突然声を掛けられた。
『っ!…アッシュ、びっくりした!』
「え?驚かせちゃ悪いと思って音立てて降りてきたつもりだったんだけど」
『風の音で聞こえなかったみたい…ごめんね』
「いや、悪かったな」
『ううん、どうしたの?なにかあった?』
「ん?…あー、お前が眠れてるか気になってさ」
『え、私?…このガタガタしてる音聞いてたら色んなこと思い浮かんできて、なかなか眠れないな〜って思ってたところだよ』
「ああ、そういえばお前この音苦手だったよな」
『え…うそ、覚えてる?』
「まあな。アレだろ?三匹の子ぶたの絵本読んで、オオカミさんが私の家を吹き飛ばそうとしてるんだ〜って泣いてたやつ」
『ちょっ!やだ…いいよ言わなくて!』
「目真っ赤にしてたから、俺も必死にユウコの家はオオカミには吹き飛ばせないよ、って言ってな…っく、ふふ」
『もうやだって!恥ずかしい!…アッシュも眠れなかったの?』
「…なんだか、な」
『そっか…ねえ、少し外歩かない?』
「外?」
『うん、…私、公園に行きたい』
「…いいぜ」
私たちはランプを持って家の外に出た。