ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《英二side》
「…っふ」
「なんだよ…笑うなよ!」
「いや、悪い…随分熱い愛の告白だなと思ってさ」
「…っな!…僕は真剣だったのに!」
「え?ああ、やっぱり真剣な告白だった?」
「違っ!…〜〜もう!アッシュなんか自分が弱点のない最強の男だとか思い続けていつか自滅しちまえ!!」
「ふはっ…!悪かったって……その、サンキューな」
「…うん」
アッシュに笑顔が戻ってものすごくホッとした。我ながら少しクサイことを言った自覚はあったけど、あの言葉に嘘は1ミリもない。
アッシュ…キミにはあんな自虐的な笑顔じゃなくて、いつもの生意気な笑顔の方が似合うよ。そんなことを言ったら拗ねたりして。
さっき、悪いと思いつつ手元を覗き込んだのは、アッシュの背中が泣いてるように見えたから。アッシュが手にしていたノートは、前に漢字を上手に書いたことと明らかに関係のあるものだった。本当にキミはユウコのことをずっと大切にしてきたんだな。
やっぱり彼にとって捨てきれない苦しみも、こそばゆいほどの思い出もここには溢れかえっているんだと思い知らされた。
「…ん?」
思い出を懐かしむ時間を邪魔しちゃいけない、そう思って部屋を出ようとした時…机の隅のある物に目が留まった。
「どうかしたか?」
「それ、机の隅の…」
「…ん?なんだこれ」
そこにあったのは、この部屋にはまるで似つかわしくない焼け焦げたような四角い物体だった。
「これ、焦げてるみたいだけど…キミのじゃないの?」
「ああ、知らな……ッ!」
「アッシュ?」
「え……いや、まさかな…」
「え?」
「あ…ああ、悪い。何でもないよ…さてそろそろ降りるか、メシだろ?パンの焼ける匂いがする」
僕の肩に腕を回してアッシュは歩き出す。
パンの匂いなんてしないけど…そう思いながら部屋を出て1階に降りる途中、確かにパンの焼けるいい匂いがしてきた。アッシュの嗅覚は動物並か。