ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
「アーッシュ!」
突然声を掛けられビクッと肩が跳ねる。
「…あれ?なんだ、キミ起きてるじゃないか。下から呼んでも反応ないし、車でずっと起きてたからもしかしたら寝てるんじゃないかってマックスが、…アッシュ?」
「あ…あぁ、今行く」
俺は声の方を見ずにそう応えた。
「1人で何してたの?」
エイジは俺の横からヒョイと顔を出して手元のノートを見た。
「あ…それ、」
「……引いたろ?」
「え?」
「そりゃそうだよな、こんなにたくさん名前だけを書き続けたノートなんて…」
自虐気味に笑うとエイジは少し声のトーンを下げてこう言った。
「…僕が引いたって、キミは本当にそう思うの?」
その声に思わず振り返ると、真剣な眼差しが突き刺さる。
「……」
…思ってない。
俺は、お前なら否定してくれると思ったんだ。
隠そうと思えば隠せたのにそうしなかったのは、どこかでこいつになら…と思ったからだ。
「エイジ……お前は、なんなんだ?」
「…えっ?」
「お前はどうして…」
いつも俺が望む言葉をくれる?
「…アッシュ?」
「まったく不思議だな…これまでの俺は“強い自分”でいるために他人に弱みなんて見せてこなかった」
「……」
「それなのに今の俺はお前になら、なんて思う…本当はそんなこと思ってちゃいけないのにな」
「なぜ?良いじゃないか、キミが弱音を吐いたって」
「…ダメだ、ボスが弱い部分を見せれば仲間はついてこない。ただでさえあってないような秩序なんだ、わかるだろ?」
「アッシュ…ボスである前にキミは人間だよ」
「!」
「仲間のためにも強いボスのアッシュでいないといけない、それはなんとなく分かる…だけど、今まではそうやってこれたのかもしれないけど、それじゃあいつかキミが壊れちゃうよ」
「……っ」
「人はひとりじゃ生きられないって、よく言うだろ?本当にそう思う。…僕だって自分を強く保っていなくちゃいられない時期はあった、だけどすごく苦しかったんだ…。だから僕は、僕の前だけでもいいから…ありのままのキミでいて欲しい」
どうして…
どうしてお前は、俺にそんなことを?
そんなことばかりが頭に浮かぶ。
でも俺の心はその言葉に確実に救われて、いつの間にかさっきまでの心の闇はどこかへ消え去っていた。