ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
「そんな目で見るなよ英ちゃん。今さらやめようとは思わないさ…それに、今マンハッタンへ戻るのは危険すぎる…あぁただし、俺たちにはもう1つ問題がある」
「問題って?」
そのイベさんの言う“問題”、実は私も少し気になっていたことだった。
「…ビザの期限切れだろ」
アッシュがそう言うと、イベさんは眉間にシワを寄せた。
「あたり。あと1週間足らずなんだ…どっちにしろ不法滞在はもう間違いないな」
「そ、それじゃあ僕たち見つかったらブタ箱行きですか!?」
「悪くすればね…しかしまあ、今さら気に病んでも仕方ないけどね」
「すみません…イベさん」
「いいよ、気にするな。せいぜいおもしろい写真を撮るさ…滅多にない機会だものな」
「ここを発つのは明日か?」
「そうしたいところだが…車の調子も悪いしな、みんなも疲れてるし…ゴルツィネがここをつきとめるにはまだ時間がかかるだろう」
「俺はすぐにでも発ちたい!早いとこその野郎をとっ捕まえて、ディノのジジイを追い詰めてやりたい!」
『私も…早くここを出たい』
本当だったらもう2度と戻るはずのない場所だったんだ。このまますぐに発てば、現実と向き合わずになかったことにできる。パパやママが今どうしているか、知らないままに…。
「まあ待てよ…少しはこの年寄りのことも考えてくれよ…お前だって肩の傷がそう良くはなってないだろう」
「…チッ、これだから年寄りはやだぜ!足腰立たねえンならついてくんなよ!」
アッシュは乱暴にドアノブに手を掛けた。
「おい、どこへ行くんだ?」
「車から毛布を持ってくるんだよ!じじいふたりはベッドで寝りゃあいいだろ!……おいエイジ、手伝え」
「あ…うん」
バタン、とドアが閉まるとロボさんとイベさんは盛大なため息をついた。
「……じじい、かぁ」
「ほんっっと可愛げのないガキだなぁ!!」
「…来ると思うか?ゴルツィネの追っ手は」
「来られたら…お手上げだ」
『………』
「おいユウコ、お前大丈夫か?」
『…うん?』
「なんか上の空っつーか…ずっと険しい顔してる」
『あ……ううん、なんもないよ』
「バーカ、前にも言ったろ?無理して笑うなって。…まァとにかく、溜め込みすぎんじゃねーぞ」
ショーターは私の頭にポンと手を置き、部屋を出て行った。