ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第7章 何度も抉られる
《アッシュside》
塀を飛び越えると言ったあいつは、確かに棒1本とその身だけで高く高く跳び上がり見えなくなった。
誰もが高い壁を前にしたら絶望する。だが、あいつは違った。これは“壁”でなく“塀”だと断言して、可能性を信じ…越えて行った。
ーー羨ましかった。
俺はいつだって目の前の高い壁を見上げては、「絶対に抗えない」と唇を噛むことしか出来ずそのまま呑み込まれてきたから。俺もあいつみたいに飛べたら、とどうしても思ってしまう。
「アッシュ、ユウコ、キサマら…」
その声に現実に引き戻された。
やっぱり俺は飛べない。
またも倉庫の一室に戻され、頬に重い一発を受ける。スキップも男達にたこ殴りにされて切れた口から血を流していた。
それを見たユウコが飛び出した時、マービンはユウコを拘束する。その腕でそいつに触るな。そう思うのに体が言うことを聞かない。
マービンがユウコの服を破り右肩を露出させる。まるで俺に見せつけるかのようにマービンはユウコの肩をスっと撫でると男たちに目で合図した。
「…ックソ、豚…野郎…ッ!…やめろ…ッ!」
動け!…飛べなくてもいいからこいつだけは。そう思い言うことの聞かない体を動かす。
「相変わらずクセェ趣味してんな、マービン。…お前はコソコソとキレーな男でも抱いてりゃ良いだろうが。」
舌なめずりをしながらユウコに近付く男共の前に割って入ったのはオーサーだ。ユウコの肩に上着を掛けたオーサーは「俺の女になれ」と確かに言った。
その瞬間血の気が引くような思いだった。
こいつが他の男と一緒になる可能性なんて考えたこともなかった。深く傷付けた俺を愛することなど一生ないとわかっていながら、どうして俺はそんなことにも気が付かなかったんだ。
こいつが幸せになれるなら、俺と離れて誰かと一緒に…そう思いつつも痛む体を動かし続けてしまう。
…どうやら傷が開いたらしい。血が出てくる。でもそれよりも痛いのは心だった。
気付くと俺はオーサーの服の裾を掴み、グイッと引っ張っていた。