ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第6章 当たり前などこの世には
並ぶベッドの上で白い布を顔にかけられた2人の姿が脳裏に浮かぶ。
何度呼んでも、
目を開けない、動かない、冷たい。
…もう二度と会えない。
『…っぐ、スキッパー…ぅっ…』
私は段々と体温を失っていくスキップを抱き締めながら泣いた。
「彼は私たちが連れていこう。君も署に来てもらうよ、話を聞かせてくれ。」
警察が私にそう話しているのは聞こえるが、スキップを離せずにいる。するとそれを見たショーターは私の肩を抱き「ユウコ、スキップをゆっくり寝かせてやろう。」と言った。
私の体から力が抜け、それを見た警察官は私の腕からスキップを抱き上げ車に乗せ行ってしまった。
『ぁ…スキッパー…』
スキップの行ってしまった先に私が腕を伸ばすと、ショーターはその腕を優しく掴む。そして、大丈夫だと私に伝えるかのように抱き締めた。
私を待っていた警察官はその様子を見て「君も着いてきてくれるか?」とショーターに言う。軽く頷くと私を支えて立ち上がり一緒に車に乗った。
私の頭の中にはスキップとの数々の思い出が浮かんでいた。ニコニコして、楽しい話をたくさんしてくれる彼。夢見が悪く、気分が落ち込んだ私に何も聞かずいつも通り接してくれる彼。私をアッシュのことでからかう彼。かと思えば、小さな体で頼れる背中を見せてくれた彼。
彼がいなければ乗り越えられなかったこともたくさんあった。もう二度と会えないなんてとても辛いけど…今は彼に1つだけ伝えたい。
今までありがとう。また会う日まで。
いるはずのない神に今だけは、勇敢な彼に安らかな眠りをと祈らずにはいられなかった。
スキップがいるという当たり前が崩れ去る、音を立てて、目の前で。
やはり、なかったのだ。
当たり前などこの世には。