ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
自分から手を差し出したくせにまさか取られるとは思っていなくて驚いたと同時に、俺はなんて小っ恥ずかしいことをしたのかと若干後悔した。
俺から見えた景色は明るさこそ違えど“あの日”と全く同じに感じられて、無邪気にユウコを想っていただけのあの頃に一瞬心がトリップしたかのようだった。
…手に触れただけで心臓が跳ねるなんてガキかよ。俺はいつからこいつに対して余裕がなくなったんだ?
ああ、そんなもん
「…あったことないな」
『ん?』
部屋に入ると、マックスは少し気まずそうに俺を見た。
「なんだよ…シケたツラだな。ここへ来させたのはあんただろう?今更嫌なモノを見たなんてツラはよしてほしいな」
「…ああいや……すまん」
エイジは部屋を見回して「わあ」と声を上げた。こんな時にもいつもの調子でいてくれる、それがありがたかった。
「へえ、なかなかいい家じゃないか」
「ふうん…こりゃ典型的コッド・スタイルの家だな」
「おいエイジ、うしろの棚の引き出しからローソクを出してくれ」
「OK………ッ…きゃああああっ!!」
『ヒッ!なになになに!?!』
大声というより奇声を発したエイジはショーターによじ登っている…なにやってんだこいつは。それに…ユウコは両手で頭を隠して丸くなっちまった。
あんな声を出されて、ネズミの方がビビっちまったんじゃねえかな。
「な、なんだよネズミくらいで!女みたいな声出しやがってびっくりすんじゃねえか!!」
「ショーター…ゴメン」
「おい、ユウコ。エイジがネズミにびっくりしただけだってさ」
『…え、うそ。ネズミに?』
「あれ?」
イベが引き出しの奥に入る手紙の束に気がついた。
「…兄貴のだろう、この家で手紙なんか書くヤツは兄貴しかいないよ」
「ほかにもあるのか?」
「…多分兄貴の部屋に」
マックスとイベが兄貴の部屋の引き出しを漁っている時、俺の頭では兄貴の遺体がどうなってるのか気になって堂々巡りしていた。兄貴は何も悪いことなどしてない、それなのにまともに弔ってもらうことすらできないんだ…俺がこんなだったばっかりに。
その時服の裾が引っ張られた。
…ユウコ。
「……ッ」