ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
あれから1度も帰ってきていないのに、私たちの足は一瞬たりとも迷わなかった。お互いに会話もないまま、アッシュのパパのお店に着く。
「………」
『……』
足を止めてお店を、景色を眺める。
あの頃と何も変わらない。
少し錆びた柵も、柱についたこの傷も。
…想像していたよりもずっと心は重く、1歩進むだけで吐き気がするほど緊張している。アッシュもきっと同じ気持ちだろう。でも、かける言葉は何も見つからなかった。
ふいにアッシュを見ると、彼もまた私を見ていた。
私たちは同時に1つ頷き入口に立った。
ドアハンドルを握ると、アッシュはふうっと息をついてドアを開けた。
アッシュ越しに見えたのは…
あの女の人だった。
「…ん?」
目線を寄越して数秒、みるみる目が見開かれた。
「…っ…あなた…」
「やあ…久しぶり、ジェニファ」
「アスラン…、アッシュね!?…ジム!ジーム!早く来て!!」
『……ッ』
アスラン、と呼んだその声にギリッと歯が合わさる。
「なんだうるせえな、なにをビービー騒いでる……」
奥の扉が開き現れた姿に、ああ私たちは本当に帰ってきてしまったんだと改めて思った。
「…やあ」
「っ…おまえ…!どのツラ下げて戻ってきやがったこのあばずれが!……って…おいまさか、そっちのはユウコか…!?」
『……Hi』
私が小さく返事をすると、わなわなと震えながらアッシュのパパはアッシュの胸ぐらを掴んだ。
「…っこの、バカ息子!!きさま、やっぱりユウコを巻き込んでいやがったのか!テイラーの親父さんがどんな思いで…!」
『ま、まって!ちがうの!私があの日…!!』
「…ユウコ、」
間に入ろうとした私をアッシュは名前を呼んで制した。
『……アッ、シュ』
「あの家の鍵をくれよ、そうすりゃすぐに出ていくさ」
掴まれた腕を払ってアッシュは近くの椅子に腰掛けた。
「なんだと…?」
「兄貴の遺したものに用があるんだ」
「……ふん、…で?おまえらはなんだ?」
アッシュのパパの目線は、入口で私たちのやり取りを見ていた4人に向けられている。