ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
車が走り始めて11時間。
途中、休憩や飯で合計2時間ほど停まったが、ここまで道は順調だ。もうすっかり日が昇って、あたりは俺の心とは真逆に明るい。
…クソ、眩しいな。
ふと隣を見ると、ユウコは頭をカクンカクンとさせながら必死に眠気と戦っていた。視界に入るのか、おっさんはチラッと横目に見て小さく吹き出している。
「おい…ユウコ」
『ん……?』
「寝ていいんだぜ?」
『んん〜…』
寝たら悪いと思っているのか、こいつは意味不明な言葉を発しながら首を振った。
「いいから…眠い時に寝とけって。着いてから昼寝なんてしてる暇ないぞ」
それに今晩は、きっとどんなに体が疲れていたって寝付けない夜になるんだ。
『……で、も……』
…もう半分寝てるじゃねぇか。
俺は若干強引にユウコの肩を抱き寄せた。
すると、俺に寄りかかったユウコからはすぅすぅという寝息が聞こえてくる。
「…………」
抱き寄せたままいられるはずもなく、右手の置き所が見つからず宙に浮く右腕をマックスに笑われた。
「お前…強引なくせして、余裕ねぇのか?」
「……るっせ」
「…ッフ、青いぜ全く」
「………ッ…」
「…ふんふふ〜ふん、ふんふふ〜ふん♪」
「…うっるせえな…」
「ふんふふ〜ふん、ふんふふ〜ふん♪」
「なんで同じとこばっか歌ってんだよ!」
「あー、いやワリィな…その先を知らねえんだ」
「…ちっ」
「ずいぶんカリカリしてんな。お前家に帰るのは何年ぶりだ?」
「…………」
「そうやってすねるとこはお前も年相応子供っぽいなァ」
「………クソ、」
「好きな子の肩をスマートに抱けない所も年相応っつーか…なァ?」
「…ッなんだと!?」
「うぉっとっと……この先はどう行きゃいいんだ?」
「右だ右!!!」
「ふんふふ〜ふん、ふふふんふーん♪」
「ああ、ふんふんうるせえなっもう!!」
道の舗装が甘いのか、やたらガタガタと体が揺れる。
その度に俺の肩からずり落ちそうになるユウコを俺は控えめに支えていた。