ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
『………』
聞こえてくる話に私たちは目を合わすことも出来なくなっていた。グラスは水滴で汗をかいているのに、そこから手を動かすことが出来ない。
私の想像していたヒューゴとの再会は「よォ!お前ら元気にしてたか?」なんてあの調子で笑い合えるものだとばかり思っていたのに…現実は真逆だった。
ヒューゴの苦しみは、計り知れない。今日までヒューゴは自分を責め、人知れず苦しみ続けていたんだ。
すると、視界の端からゆっくりアッシュの手が伸びてきて私の手に一瞬重なった。
『…っ』
優しく温かい体温が離れたかと思うと、アッシュは体を向けずに頬杖をついたまま言葉を発した。
「…へぇ、アンタ随分大変な経験をしたんだな」
「?」
「ああ…悪い。隣だからつい聞こえて」
「…いや」
「そうだ…ねえ、せっかくだから酒を奢らせてよ。なんでもいいぜ、この店で1番高いやつでも」
「遠慮しておくよ…」
「そんなこと言わずに、頼むよ」
「どうして見ず知らずのキミがそんな」
「俺さ…アンタと似た人に恩があるんだ。それで、「いつか酒を奢る」ってそいつと約束してるんだよ」
「…………なんだって?」
「もう何年になるかな、あれから俺たちもだいぶ大人になって背もかなり伸びたし、もう気付いて貰えないのかもしれないけど。…ああ、お前はあまり変わらない?」
『…伸びたよ!』
突然話を振られて私は反射的に声をあげる。ヒューゴは私の存在に今気付いたようで、驚いた顔をした。
「アンタが探してた通り黒髪の女の子の隣にブロンドもいるけど…俺たちは神に愛されてなんかないし、人違いかな」
「……っ嘘、だろ」
その表情がみるみる変化していく。
ヒューゴは口をパクパクと動かしながら顔を左右に振る。