ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
《アッシュside》
「……お前なのか?アスラン」
「…ああ。そんなわけでさ…酒を奢りにきたよ、“ヒューゴ”」
「っ…!」
薄暗い店内でもハッキリ分かるほどに顔を真っ赤にしてボロボロと涙を零すヒューゴ。それに釣られたのか後ろからも嗚咽が聞こえてくる。
こいつは本当に泣き虫だな…。
「…お前は…ユウコ」
『…ぅっ、…う…ん』
「あぁ…っ、お前の泣き顔には見覚えがある!確かにユウコだ…っ…綺麗になったな…」
「…アンタ、彼女の前だろ?」
「!」
ヒューゴは勢いよく振り返る。
「…あなたのそんなに生き生きとした顔、初めて見たわ」
「……レイラ、どうして泣いて…」
「馬鹿ね…っ、嬉しいのよ」
「…そういやお前ら、ずっとどこにいたんだ?あの男は何者だったんだ?大丈夫だったのか?今はどの辺りに住んで…」
「悪いなヒューゴ、実は…今日俺たちあまり時間がないんだ」
「そう、なのか…」
「だから今日のところはあの日の約束だけ果たさせてくれ」
「…わかった、話はまた今度」
「ああ…」
俺たちが語れる過去は多くない。ましてや、俺たちを守ろうとしてくれたヒューゴに話せることなんてほとんどない。
…それにしても、まさか故郷に帰るその日にヒューゴに会うなんて不思議な巡り合わせだ。
「…すげえ美味かったよ、ありがとな」
『こちらこそ!私たちずっとあの時のお礼を言いたかったの…ヒューゴ、本当にどうもありがとう』
「いやいや。あれからケープ・コッドには?」
『…ううん』
分かりやすくユウコの語気が沈んだ。
「今日、これから帰るんだ」
「…そうか、相変わらずのワケありか」
「…ハハ、そんなとこかな」
「お前、ちょっとこい」
グイッと俺の肩に腕を回したかと思うとユウコたちと少し離れたところで解放された。