ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第6章 当たり前などこの世には
一瞬、世界が止まったように感じた。
『「スキップ!!」』
私たちの声はほぼ同時だったと思う。
胸から血を吹き出しゆらりと倒れるスキップがスローモーションのように見えた。
「スキッパーッ!!」
アッシュはスキップに駆け寄り名前を呼びかける。拘束される腕で、彼を抱き起こすことすら出来ずに何度もただ呼び続ける。
「………」
スキップがもう二度と目覚めないことを悟ったアッシュは、そっと手のひらで包んでいた頬を離すと立ち上がる。
「マービン…!きさま!!」
「やべぇ!サツだ!」
その声に目線をやると数台のパトカーから警察が「動くな!」と降りてきたところだった。
「チッ」
そう舌打ちをしたかと思うと、マービンは近くの車に乗り発車する。
「待て!!マービン!!…どけっ!!!」
アッシュは車に乗りこもうとしていた男に体当たりをして車を奪うと、拘束される腕のまま強くアクセルを踏んで凄まじいエンジン音を立てながら追いかけていってしまった。
「アッシュ!よせ!!」
『…まって!!アッシュ!!!』
私とショーターの声は届かなかった。
「ショーター!アッシュはどこだ!?」
「おっせえよオッサン!!早くあとを追えよ!スキップがマービンに殺されたんだ!アッシュはヤツのあとを追っかけてった!!」
「なんだと…!?今の車か?!」
チャーリーと恰幅のいい警部がバタバタと車に乗りサイレンを鳴らしながら発進させた。
「ユウコ…」
ショーターは放心状態になる私の元へ近付き、腕の縄を解いた。そしてボロボロの服を見やると、腰に巻いていた服を着せてジッパーをあげた。
私は震える足でスキップの元へ歩く。
倒れるスキップの横に座り、話しかける。
『スキッパー…、目を開けて、』
スキップは目を閉じたまま動かない。
『悪い冗談はやめて…ねぇスキップ!…そうだ、さっきの話の続きをしよう!ほら…なんだっけ…なんの話が途中だったっけ?教えて、忘れちゃったよ…ねぇ!』
上半身を抱き起こし手を握ると、彼の手はとても冷たかった。
『…ッ…スキッパー』
その冷たさに触れた時、私は思い出した。
『…………』
両親に最後に触れた時のことを。