ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
「…この奥に酒屋があったよな」
そう言いながら歩き出すアッシュの足取りには迷いがなくて、まるでまだつい最近の記憶を辿っているかのように見えた。
『アッシュ、すごいね…あのマップだって初見だったのにすぐここを見つけ出して…私ビックリしちゃった』
「ここの周辺地図は今でもよく見るんだ」
『え?』
「…あいつを探してたのはお前だけじゃないってこと」
『!』
ディノの屋敷を離れてから1度一緒に探したけど見つからなくて、それ以来はあまり会話に出てくることもなかったから…私はなんだか嬉しかった。
『アッシュもヒューゴを探してたんだ…!』
「当たり前だろ?…酒奢るって約束、まだ叶えてないからな」
照れくさそうに頭をかきながらアッシュは、「あいつに誇れるような人間にはなれなかったけど」とボヤいた。
少し歩くと、微かに見覚えのある古びた酒屋が目に入った。
『あ…アッシュ、ここ!』
「ああ」
私たちは扉に近付く。すると、中からタイミングよく店主らしき50代くらいの男性が出てきた。
「ん?…お客かい?」
『えっと……』
「ブルックリンラガー置いてる?5本欲しいんだけど」
「もちろんさ、この辺じゃ見ない顔だけど…あ、観光にきたの?こっちのお嬢ちゃんはチャイニーズ?可愛い子じゃないか」
店主は私をするりと見てそう言った。
『……あ、えっ……』
「いや、こいつもアメリカ人さ。…それよりおじさん、俺たちちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
「なんだ?」
「10年近く前にここでヒューゴって男が酒の配達に来てなかった?」
「ヒューゴ……あぁ、確かに彼はここにきていたが、それがどうかしたのかい?」
『っ…そのヒューゴが今どこにいるか知りませんか?私たち、ヒューゴに会いたくて探しているんです。』
「…そうか…残念だが彼の今は俺もよく知らないんだ。ある時を境にここいらで見かけなくなってね」
「ある時?」
「ああ…どうやら彼には可愛がっていたストリートキッズがいたそうなんだが…その子が悪いことに巻き込まれてしまったらしくてね、それが自分のせいかもしれないと言ってすっかりふさぎ込んじまったって話だよ…。まあ風の噂で聞いただけだが、彼は人が良い青年だったから…なまじただの噂ではないと俺は思ってる」
「『……』」