ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第19章 Cape Cod
『ねえ…アッシュ、』
「なに?」
『…大丈夫だよね?』
何が、とは言わなくてもアッシュにはきっと伝わる。
「……ああ、大丈夫さ」
これまでのこと、
これからのこと、
忘れたくても、どうしても忘れることが出来なかったケープ・コッドのこと。
私たちが捨てた街や家族のこと。
「…俺たちは、今もふたりだろ?」
『…っ……うん』
ひとりじゃない。
ちゃんと今も、ふたり。
その時、
カタンッと後ろのドアから音がした。
「『!』」
「…わっ!バカ、オッサン!」
「わりぃ〜!なんか蹴っちまった!」
そこにいたのは、ショーターとロボさんだった。
「なに?……盗み見?趣味悪いぜ」
「ち、ちげえよ!そろそろ出発するかってんで、たった今呼びに来たとこで…な、オッサン!?」
「ああ、残念なことに何も見れなかった」
『あ…もう行くの?』
「もう大分暗くなってきたからな、ピックアップトラックも下に準備できてるぜ」
『そっか』
「なんだァ?随分暗ェ顔しやがってよ」
『ううん…ごめんなさい、大丈夫』
「エイジは?」
「あぁ、あいつは今イベが起こしてるよ。まあ道のりも長そうだし、車乗ったらまた寝ても良いしさ」
「軽く調べてみたが距離がある上…ポリスの目につかない運転をしなくちゃなんねえから相当時間は掛かりそうだぜ」
「…そうだな」
距離やおおよその時間は、昔のことだけど覚えてる。
あの時のことはこの先も一生忘れないだろうな。
『…ヒューゴ』
「あ?ヒューゴ?なんだそりゃ」
『ロボさん、ひとつお願いがあるんですけど…』