ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第18章 動き出す
消毒液のにおいに、包帯…?
「おまえ…なにやって……!!」
その声、
『……え……アッシュ?』
「この、バカヤロウ!!!!」
『?!』
頭ごなしに怒鳴られ、ビクッと肩が跳ねる。
シャツを着ていなくて直に触れるアッシュの胸からは、バクバクと激しい鼓動が聞こえた。
「俺が来なかったら…っ、今頃…下に」
『…っ!』
そうか、私今ここから落ちそうになっていたんだ。アッシュの語気は強いものの、震えているのがわかる。
「!…まさかおまえ、ここから」
『ちがう……っ!』
「…え?……泣いてるのか?」
アッシュの変化に私が気付けるのと同様に、アッシュにもバレちゃうんだ。昔から、アッシュには何ひとつ隠し事ができなかった。
「どうして…」
『…っ…ごめん、アッシュ…』
「…なにが?」
『…ッ…ぅ……グリフ、のこと』
「…っ…!」
『私、撃たれたその場にいた…のに、グリフを守れなかった…!』
「……ユウコ、」
『ごめ…ん、本当に…ごめ…ッ』
数日前にアッシュと再会してから、私の頭の中にはずっとグリフとのことがあった。アッシュにあの時のことを話さなくてはと、私はずっとそう思っていた。
でもなかなか話し出せず、今日まで…。
「……おい……ユウコ」
『……っ…ごめん』
「…ユウコ!」
アッシュは体を離し私の両肩を掴んで揺すった。
『……ぅ…』
右肩の傷が痛むのか眉を顰めるアッシュ。
「ッ…おまえは、悪くない」
『……っ』
「…ショーターに聞いたぜ。おまえグリフの前に飛び出して盾になろうとしたんだって?…おまえが無事で、本当によかった」
アッシュは大切な家族を亡くした。
それなのに私を責めるようなことは一言も口にしなかった。
いや…わかってた。
優しいアッシュがそうしないことくらい。
だからこそ、いっそ責めてくれたら…と心の底から思った。おまえがしっかりしていればこんなことにはならなかったのに、とボロボロになるまで責めてくれたら…。
『……っ…う…ぅ』
次から次へと涙が溢れて止まらない。
するとアッシュはそんな私の頭を撫でたかと思うと、「馬鹿だな」と一言震えた声で呟いた。
ああアッシュも泣いてる、
顔を上げなくても私にはそれがわかった。