ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第17章 ハードな朝
《英二side》
顔を合わせたまま、フリーズする2人。
…そりゃ、そうなっちゃうか。
すると、クルッと体を回転させてユウコが僕の元に戻ってきた。
「…ユウコ、あの実は」
『エ、エイジ!』
背伸びして僕に耳打ちをするユウコ。
『ねえ…これ、もしかしてまた夢?』
「…へ?」
『私、本当はまだ寝てる?』
「…えっ、あ…」
「おい」
アッシュの声にユウコが振り向く。
僕はその背中に小さく呟く。
「……これは、夢じゃないよ」
『…………え?』
「久しぶり、だな」
『うそ…アッシュなの?』
「あぁ、見ての通りさ。なに?もしかして、俺のこと…忘れちゃった?」
『っ…そんなわけ!ないよ』
「っふ、そうか」
廊下ではあんなに不安そうな顔をしてたのに、ユウコを前にしたらこんな風に振る舞えるのか…。
ユウコはユウコで、夢じゃないと分かった瞬間に声のトーンが落ち着いた気がする。…きっと2人とも今必死に本心を隠してここに立っているんだ。
本来なら昨日のように抱き合いたいはずなのに。
相手を想って、本当の感情を偽り続ける2人。
それが、全てを知る僕には切なくて辛い。
『なんで…あれ、まって…もしかして…刑務所、』
「脱獄したのかって?…してねえよ、ちゃんと手続きは済んでる」
『……エイジ、知ってたんでしょ?』
「うん、ごめん。キミに内緒にしてたのはね…、2人の安全が約束された場所で会って欲しかったからなんだ。本当は1番に知らせるべきだとわかっていたけど…ごめんよ」
『そっ、か…ううん。ちなみに刑務所出てきたのって?』
「……きの」
「今朝だ」
「うん、今朝!」
僕はアッシュに合わせて慌てて頷いた。
『今朝…?』
「お前、よく眠ってたみたいだから気付いてないのかもしれないけど…もう昼すぎだぜ?」
え…?まだ9時頃のはずなのに。
『…わ、ほんと?』
ユウコに視線を向けられたショーターは動揺することもなくヘラッと笑った。
「ああ、もう昼飯の時間だな。まあ食べながら話そうぜ?冷めたら美味くなくなる」
「…お前の飯はどっちにしたって変わらねえよ」
「あーもうそういうこと言うやつは食わなくていいです!」
笑う3人を見て、何気ない日常を感じた。