ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《アッシュside》
「……悪かったな、2人とも」
「ハハッ、なかなかの機転だったろ?」
「…ああ」
「さて、俺たちも寝るかー…おい、エイジ大丈夫かよ!アッシュはどうすんだ?ここでユウコと寝るか?」
「は?…んなわけねえだろ」
「でもよ…“泣き虫ユウコ”チャンが離してくれないんじゃねえの?」
「…てめえッ」
「ック、冗談だよ!はあ〜あ…それにしても、なんだかなあ…なんでなんだろうな?」
「なにが?」
「んぁ?いや…なにが、とは言わねえけどよォ…ほんと、つくづく…不思議なもんだなと思ってさ」
「…何の話だよ?」
「傍から見てりゃどんなにわかりやすくても、自分のこととなると人間見えねえモンなんだな〜ってよ…まぁそう簡単にいかないのが人生、みたいな?」
「え…お前頭打った?」
「いやこの短時間で?!どこに?!打ってねえよ!!…まあいいんだ、お前はいつかきっとわかる。…これでも今日、俺は少し安心したんだぜ?」
フッとショーターはやけに大人びた笑みを浮かべて立ち上がった。
「似合わねえ…」
釈然としないながらも釣られるようにユウコを抱えて立ち上がり、ベッドに寝かせた。
3人で部屋を出て、それぞれ割り当てられた部屋に戻った。
ハァと大袈裟に息を吐きながらベッドに寝転ぶ。
「……」
ユウコが寝落ちる前に掴んだ部分に触れる。
酔って眠ったあと、あいつは記憶がない。
そのことを知ってるから俺はあんなふうに抱き締めることが出来た。
ユウコが起きる前にショーターが話していた一件のあと、野郎だらけの場所では危機感を持てと偉そうに説教をしたのは俺だったのに…結局その状況を俺は利用した。ショーターのこと言えねーじゃねえか。
…抱き締めて
あいつの言葉がぼんやりと脳裏に蘇る。
それはついさっきのなのか、まだ記憶に新しいあの朝のなのかは定かじゃない。
どうして、どんな気持ちでお前は…その答えは、今日何となくわかった。
きっと意味など、ないんだ。
だってお前は昔と何も変わらない。
寂しがりなところもあのクセも何もかも。
お前には俺とのハグなんてガキの頃のスキンシップの延長線。
俺にはお前が望むハグはしてやれない。
…どうしたって愛になってしまうから。