ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《英二side》
「ベッドに運ばなくていいの?」
「…いいよ、起きるだろ」
「それにしても、こいつよく寝るな〜。お前らを待ってる間もあの隠れ家で……」
「隠れ家で、何だよ?」
「あ?…っあぁ、いや?何でもねえ」
「怪しいな、やっぱり酒で寝かせて何かしようとしてたんじゃないのか?」
「だから誤解だって!オンナに飢えてたあの頃とは違うんだぜ?ソーイウコトするってだけの相手にわざわざユウコは選ばない、俺はそんなに命知らずじゃねぇよ。…こいつは昼間もあそこで寝てた…ただそれだけの話さ」
「…へえ?そうかよ」
ショーターをからかっているような、でもどこか本気で言っているような…そんな感じに見えた。
「ほ、ほら!ユウコはずっとよく眠れていなかったんだから、寝すぎてるくらいできっと丁度いいんだよ」
「…そうだ、エイジの言う通り!」
キミが余計なことを言うからフォローしてやったんだぞ!
そんな言葉をグッと飲み込んでアッシュを見ると…彼は消えてしまいそうな程儚げにユウコを見つめていた。
「…っ…また話せなかったね」
「…ああ」
「お前さ…、そうやってずっと眺めてるだけでいいわけ?」
「どういう意味だ?」
「…誰かに取られてからじゃ遅いんだぜ?」
「………お前に?」
「…ち…っ!……いや、俺だとしたら?」
「もうショーター!キミまた余計なこと…」
「渡さない」
「「!」」
「…渡したくはない。お前だからじゃなくてエイジにも…誰にも」
「アッシュ…?」
「…でも、これはあくまで俺が勝手にそう思ってるだけだ。こいつがお前を選ぶなら……それでいい」
「ッハハ…いつになく弱気だな」
「俺は元々こんなさ」
「嘘つけ!…って言ってもお前とこんな話をするのは初めてか」
「なんかトリハダ立つ言い方だな…酔ってんの?」
「っせえな!お前も少し酔ってんだろ、どこで飲んできたんだよ!」
一瞬雲行きが怪しくなった2人は、いつの間にか和やかな空気に戻っていた。
…この2人は普段こんな空気感なのか、強い絆で結ばれた親友同士っていう感じ?
なんだかちょっと羨ましいや。
その時、
『…っふふ』
突然ユウコの声が聞こえて、僕らは全員一斉に目を向けた。