ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《英二side》
音も立てずに入ってきたのは、
「あ!…アッシュ」
「そうアッシュだよ!…すげえドスの効いた声で離れろって言われてよォ、いやぁ…あん時のあいつの顔一生忘れらんねえわ!」
「……あ、あのショーター…」
「ん?」
「…離れろ」
「っ!!」
ショーターはビクッと肩を跳ね上げて恐る恐るドアの方に顔を向けた。
「ヒッ!」
「あの時の俺はどんな顔してた?教えてくれよショーター」
「…それ!その顔だよ!…ってかお前帰ってきたんなら声掛けろ!それにエイジも早く教えろよバカ!」
「だって!」
「…で、どういう状況?」
アッシュは肘掛けを枕に眠るユウコに目をやるとテーブルの上、ユウコの目の前にしゃがみこむショーター、そして隣に座り身を乗り出す僕、と流れるように鋭く睨んだ。
僕とショーターはユウコから離れるように反対側のソファに逃げた。
「ち、ちがうから!」
「誤解すんなよ!?」
「何を?…俺はどういう状況かって聞いただけなんだけど」
「……あ、あのユウコがお酒飲んで寝ちゃったから、今ベッドに運ぼうとしてたところで…」
「酒?」
「うん、紹興酒と杏子酒を」
「…まさか、ショーター…お前」
「お、おいちげえぞ?!俺は飲ませてねえ、こいつが自分で…」
「…ンなことわかってる、冗談だよ」
ハァとため息をつきながらそういうアッシュを見て、ショーターはわかりやすくホッと息をついた。
アッシュは上着を脱いでユウコの上にかけると、自然な流れで隣に座った。