ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《英二side》
…誰にか、なんてすぐにわかる。
「エイジ……もう、言っちまおうか」
今のが聞こえていたかは分からないけどショーターはポツリとそう言った。
「…そうだね」
彼女は今も何も知らずにアッシュのことを待っているんだ。綺麗な顔が痛々しい程にやつれていくのを、僕はこの期間ずっと近くで見てきた。
幼馴染みの2人は、ドラマとか漫画によくあるようなありふれた安っぽい関係じゃない。
それは何となく感じていたけれど、その真相を知ったのは今日のことだ。
あの話を聞いてから2人を思うと…いたたまれない気持ちになる。
計り知れないほどの痛みを抱え、彼女もまたアッシュを想ってるんだな…。
ねえ、2人の気持ちはとっくにひとつなんだよ?
もう涙を流さないで、
「…ユウコ、あのね実は…」
僕は改めて声を掛けた、けど反応がない。
『……』
「……あれ…ユウコ?」
その時ユウコの手からグラスがするりと抜けた。
「っわあ!!」
「…おお、ナイスキャッチ」
ショーターはケラケラと笑いながら立ち上がってユウコの傍にしゃがみこんだ。
「おーいユウコ……寝てるわ、ベッド運ぶか。…ったく、酔って寝ちまうとこは変わってねえな」
「え?」
「出会って間もない頃、大人数で酒飲んで騒いでた時にこいつ今と同じように酔って寝たことがあったんだわ」
「うん」
「まァ言えば、当時の俺たちにとっちゃオンナが目の前にいるってだけで興奮の材料だったわけで…その上寝てて…周りタカって覗き込んだりなんだりしてて………そのあとは」
その時、
僕の視界の先でゆっくりとドアが開いた。