ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《アッシュside》
ドアを背にズルズルとしゃがみこむ。
俺は、何をしようとしていたんだ?
「…っ…ありえねえ」
「なに?…襲っちまった?」
「!?」
バッと横を見ると、ふたつ飛ばしたドアの前にショーターが背をもたれて立っていた。
「お前に気付かれないなんて俺もなかなかやるな」
「……」
「…は……え?お前、マジで襲っ」
「ッせえな」
「そう睨むなよ」
ショーターはクツクツと笑いながら、廊下を歩き始めた。
しばらくして、ドアの前に護衛をつけた部屋にたどり着く。
「チャイニーズマフィアの総大将がお前に会いたいってよ」
「……」
李王龍、華僑銀行の頭取か…。
重たそうなドアが開くと大層立派な椅子に座った男と目が合う。
「やあ、ようこそアッシュ・リンクスくん」
中に入ると、広い部屋の至る所から鋭い視線が飛んでくる。俺は反射的に身を屈めた。
「そんなに警戒しなくていいよ、わたしたちはキミを歓迎しているのだから」
「……そうかな」
「ああ、そうだとも。だが、刑務所帰りで丸腰のキミに安心しろというのも無理な話か…」
そう言うと、近くの男が目の前でガンケースを開いた。
「…S&W 357マグナム。銃身はキミの使用していたものと同じにしてある」
「3.5インチ……よく知ってるな」
「キミのことはショーターからよく聞いているよ…随分と若いようだが、とても荒くれた不良たちを率いるボスには見えんね?」
「そりゃお互いさまだろ?あんただってただの銀行家には見えないよ…Mr.李王龍」
「フッ…なるほど、キミを子ども扱いするのはやめた方がよさそうだな。…他に何か必要なものは?」
「まず匿ってくれたことに対して礼を言う。だがひとつだけ言わせてもらう」
「…ほう?」
「俺はあんたらとゴルツィネの間のことには興味がない。そういう意味での手助けなら一切断る」
「…我々は多民族の干渉を受けずに我々のやり方で道を切り開いてきた、が…この所ディノ・ゴルツィネは少しやりすぎている。だから我々としてはゴルツィネに反旗を翻す者に対して幸運を祈りたいだけだ」
…心根が読めない男だ。
だが、そういうことなら
「……いいだろう、力を借りよう。…魚市場に出入りできるトラックを1台用意してくれ」