ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《アッシュside》
その後ショーターの案内で俺たちはチャイナタウンの李家の屋敷にやってきた。
「…すごいや、広いし綺麗」
「部屋はそれぞれ用意してもらった。部外者が立ち入ることはまずないから安心してくれ。今後のことを決めつつ、しばらくはここを使わせてもらおう」
ディノと確執のある李家の手を借りるのは正直気がすすまないが、迂闊には動けない。なにより今は冷静に作戦を組み立てる場所が欲しかった。
「…ああ、助かるぜショーター」
俺たちはひとまず一番奥の部屋に入った。
「部屋はこの並びで4部屋だ」
「えっ!?こんなに広い部屋を1人で使っていいの!?」
「この部屋にユウコを寝かせるとして…隣にアッシュ、エイジ、俺の並びでいいか?」
「OK…問題ない。エイジ、手を貸してくれ」
「あ、うん」
背負っていたユウコを寝かせる為に俺はそのままベッドに腰掛けた。視界をプラプラしていたユウコの腕は座高の差で体の脇に落ちる。
エイジがユウコの体を支えたのを確認し、立ち上がろうとすると、
ギュッ
「!」
突然、ユウコの腕が俺の腰に回った。
「…わーお」
「あれっ、ユウコ起きた?」
『………』
俺の服をキュッと掴んでいるが、何かを話したり動いたりする気配はない。
「…起きた、のか?」
「あ、ううん!まだ寝てるみたい」
は?
「…寝てる?」
「うん、寝てるよ。…どうする?このままにしておいた方がいい?」
「だ、…だめに決まってるだろ!」
ふと目の前のショーターに目をやると、ニヤニヤとこっちを見ていた。
「…何だよ」
「いいや?べつに?」
「……」
俺はいよいよこいつらの妙な空気感に耐えられなくなって、服を握るユウコの手を軽く掴み解く。
肩を支えているエイジと代わると、1度体を抱き上げてからベッドに寝かせた。
ユウコに布団を掛けていると何故かエイジが感嘆の声をあげた。
「何?」
「本物の“お姫様抱っこ”だ、と思って」
「え…オヒ、メサ…?」
「あ、いやごめん、なんでもないよ」
「おかしなやつだな」
「…早く目が覚めるといいね、ユウコ」
「あぁ…」
俺が再びベッドに腰掛けると、その隣にエイジも座った。