ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《英二side》
「…よく耐えたね」
「……っ」
「よく、頑張った…」
「俺…最低な、男だろ…?」
「そんなことない…キミはえらいよ」
「……」
今、僕の腕の中のアッシュに銃を握っている時の面影はなかった。体の大きい子供が温もりに甘えているようにしか見えない。
気持ちが少し落ち着いてきたのか、アッシュはまたぽつりぽつりと話してくれた。
2人で1人の接客をする時に、他の男と繋がるユウコを見るのが何よりも辛かったこと。
ユウコへの罪悪感にある時からどう接すればいいのか分からなくなってしまったこと。
だんだんとユウコがアッシュに対してひどい依存状態になってしまったこと…
「…日々不本意に与えられ続ける快感と月に1度訪れる底知れぬ恐怖に心が不安定になったんだろうってさ…」
「今は克服出来てるよね…?」
「ああ…俺が少年刑務所に入ってる間に克服したらしい。俺たちの家庭教師だった男のおかげだとユウコから聞いた」
「…そうなんだ」
アッシュは僕の背中に一瞬だけ腕を回して体を離した。
「……悪かったな」
「え?」
「“かなり重い話”だったろ?」
僕はアッシュが話の前置きに言っていた言葉を思い出した。…うん、確かに軽い話ではなかった。
「それと、」
アッシュはそう言ってクイッと親指で窓の外を指した。
「ゲイと間違われたみたい」
「…えっ!?」
車の外にはニヤニヤとこっちを眺めている男たちがいた。アッシュがおもむろに窓を開ける。
「Hi…ダーリンはボクのだから手を出さないでね?」
そう言ってチュッと僕の頬にキスをした。
「…わぁっ!?」
「さ、いこうダーリン…車を出して」
「…っえ、…あ、うん」
慌てて座席に戻りエンジンを掛けアクセルを踏む。
「ダーリン…顔真っ赤、照れちゃった?」
「と…突然何するんだよ!」
「この街じゃゲイ認定されたヤツは路地裏連れ込まれてケツ掘られちまうんだぜ?お前には相手がいるって教えてやったんだよ」
「え……あ、そうなの?…ありがと」
「まぁ嘘だけどな」
「はぁ〜!?もう!さっきは弟みたいで可愛いなとか思ったのに!最低だよ!」
「…最低じゃないって言ってくれたのは“オニイチャン”でしょ?ほら危ないよ前を見て」
「クソ〜ッ!」