ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第16章 それでも前へ
《英二side》
アッシュとユウコが…?
どれも平和に生きてきた僕には現実離れしていて、小説の中の話のようだった。信じ難いほどに残酷で、2人がどんな気持ちで過ごしてきたのかを想像することすらできないくらいだ。
思わず嘘だろ…と言いたくなってしまうような話なのに、アッシュがこんな嘘をつくわけがないのは明白で、これが全て事実だと、そう伝わるからこそ辛かった。
僕は気付くと涙が止まらなくなっていた。
「…どうしてお前が泣くんだよ」
「っ…ご、めん…辛い話を…」
「……俺が始めた話さ」
「…キミがどれだけ辛い思いをしてきたのか、どんな想いを抱えて今まで生きてきたのか…その…想像すら、できなくて…ごめ…っ」
「俺はお前が同情じみたことを言うようなヤツじゃないとわかってるから話したんだ…それに、辛い思いをしたのは俺じゃなくてユウコだよ…俺のせいで、ユウコは一生消えない傷を心と体に負ったんだ…全部、俺のせいで…」
「…そんな!キミのせいじゃないよ」
「いや俺のせいだ。…エイジ、お前だって知ってるだろ?…セックスは勃たなきゃできない」
「……」
「…俺のが役に立たなければ、こんなことにはならなかった」
「でも…っそれは、意識してどうにか出来る問題じゃ」
「…ッ俺は…!
俺は…あいつを犯しながらどこか興奮してたってことなんだ…命令されて、無理やりにさせられた行為だったはずなのに…俺は、あいつの体や声に…欲情して……ッ」
アッシュ…キミはいつもそんなふうに自分を責めてきたのか?自分のせいだ、とずっと自分を追い込んで許せずにいたのか?
「……俺は、俺をレイプしたあの男と同じなんだ…」
「っ!…それはちがう」
「同じだ…」
「全然違うだろ?!ユウコとの行為はキミの意思じゃない!…キミだって被害者だ!」
アッシュはピクッと体を一瞬震わせて、両手で顔を覆った。
「…ユウコにとっては同じなんだ、なにも違わない…あいつにとって俺はレイ…ッ!」
体が勝手に動いていた。
「…っ…」
僕は座席から身を乗り出しアッシュを抱き締めた。何故かは自分でもよく分からない。ただ、続きを言わせたくない…抱き締めてあげたいと思った。
車内は静まり返っていた。
体を固くしていたアッシュは徐々に僕に身を委ねた。