ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
「この塀を飛び越えるんだ。」
「what?」
「…頭がおかしくなったんじゃないのか?」
『エイジ、落ち着いて?』
「日本じゃこれより高いのを飛んでたよ。オレは棒高跳びの選手だったんだぜ…」
「馬鹿な真似はよせ!そんな腐った水道管、折れたらそれっきりじゃねぇか!」
「そーだよ!うまく飛び越えられたって向こう側にマットがひいてあるわけじゃねーんだぜ!」
「じゃ、このまま皆殺しになるのを待つのか!?どーせ死ぬならなんだってやってやらあ!!」
『……』
私とアッシュはエイジの気迫に押され何も言えなくなった。
「そーいうの“カゼカミ”って言うんだろ?」
スキップが言う。
「“カミカゼ”だよ!!!」
エイジはそう叫ぶとタッタッとリズミカルに助走をつけていく。その時、私たちの後ろで「いたぞ!」と声がしたが私たちはエイジから目が離せなかった。
「もちこたえてくれよっ!」
そう言ったエイジは水道管をしならせ、高く高く飛び上がった。壁を越えるその瞬間はスローモーションのように見えて空の青と白いシャツのコントラストが美しかった。
「わあっ、とんだあっ!!」
スキップが歓声を上げた次の瞬間
ドッちゃん!
ガラガラガラ!!!
物凄い音がした。
「うぎゃあああぁあっ」
エイジの悲鳴が聞こえる。
壁の向こうは全く見えないけど、どんな状態なのか想像がついた。
飛んだ…
今、確かに見た。
翼も持たない、
私と同じ黒髪の青年が、
ーー人が空を飛ぶ姿を。