ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第5章 人は空を飛べるか
「ウッソーーーッッ!…え、ユウコ…?」
「エーチャン!しーっ!」
「へへへ…いいとも、こっちへきな」
「あばらが折れちまったらしいんだ…ちょっと…手、貸してくれない?」
アッシュが猫なで声を出して、マービンをこちらに来させる。私は先に立ち上がり、マービンとすれ違う。マービンをアッシュと私で挟むような位置取りになった。
「そいつぁかわいそうにな…あとでちゃんと手当てしてやるぜ」
アッシュと目が合う。
その瞬間に私はマービンの背中を思い切り蹴り飛ばす。アッシュの方へ体勢を崩したヤツの腹を、そのままアッシュが膝で蹴りあげる。
「ぜひそうしてもらいたいぜ!!」
最後に背中をアッシュが両肘で殴り下ろすとマービンはすっかりその場にのびてしまった。
「!!」
「やったっ!さすがボスとユウコ!!やったね!」
「いっててててて…」
『エイジ、スキップ!早く、今のうちに逃げよう!』
私が声をかけると、エイジは呆然としながら「たくましいな…」と呟いた。
「オレたちが乗っけられてきた車があっちにあるはずだよ!」
コソコソと倉庫を抜け出し走っていると、アッシュは突然壁に背中をつけ苦しそうに顔を歪めた。
「いてて…」
「痛むのか!?」
「…ざまあねぇな、まったく…」
「あっちだ!!」
「おまえらは向こうを探せ!」
後ろのどこかからそんな声が聞こえてきた。逃げたのがもうバレたらしい。
『《エイジ、お願い!》』
私がアッシュを支えて走るには身長差がありすぎる。
エイジにそう頼むと、わかったと言ってアッシュの腕を自分の肩に乗せ様子を見ながら走り出した。
「あっ!いっけねぇ!行き止まりだ!!」
そこには高い壁があり、抜け道もなく…正真正銘の絶望だった。
エイジはアッシュから離れ、じっと目の前の壁を見つめた。数秒した後、おもむろに近くの壁から水道管をメキッと外した。…戦うつもりなの?
「よーし、オレも…!こーなったらひと暴れするぞ!エーチャン、見かけによらず根性あんな!ますます気に入ったぜ」
スキップがそういって同じように水道管を手にした。私も続く。アッシュはこんな状況だ。もうこれ以上負担はかけられない。
手に水道管を持つ私たちを見て心配そうな顔をする。
『アッシュ、大丈夫だから端に寄っ』
「そうじゃない」
エイジは私の言葉を遮った。