ヤマネコ-ノ-ツガイ【アッシュ】BANANAFISH
第14章 消えない傷
《アスランside》
ユウコの首に顔を近づけて傷を舐めた。舌で何度拭っても真新しい傷口からは血が次々にプツプツと滲んでくる。傷への刺激にピクンッと体を震わせるユウコは、依然として泣いていて途切れ途切れに僕の名前を呼んでいる。
「…ユウコ…」
ヂュルッと軽く吸い上げ唇をそのまま傷口からゆっくりと移動させる。僕の唾液で滑りが良い。ちゅ、ちゅ…と音を立てながら首筋に舌と唇でキスを落としていく。
こうすると客は喜ぶよ、といつかクリスに教わったコレをまさかユウコ相手にする日がくるなんて思ってもみなかった。
僕は、この行為を客からされるのも自分がするのもずっと大嫌いだった。プレイの中でこれが1番終わりの見えない無意味で無駄な行為のように感じていたから。
7歳でレイプされていた頃はただ恐怖に怯えて何も考える余裕なんてなかったけど、ここに来てからはセックスを早く終わらせる方法なんていやでもたくさん覚えてきた。
だから性器でもない場所にキスを繰り返して地獄のような時間が長引くくらいなら、咥えさせられたり挿れられたりする方がマシだとさえ思っていた。
それなのに、どうして?
『…っん…ぁ…は、あ』
僕は今、しつこくユウコの首筋にキスを落としている。客とユウコで違うのは当たり前だけど、喉の奥から漏れ出るようなユウコの熱い吐息や声、伝わる体温に心臓がバクバクと暴れている。
「っ…ふ……ユウコ」
『ぁ、アス……んン…っ!』
耳たぶを軽く噛みながら名前を呼ぶとユウコはビクンと体を揺らし、まるで発作が起きている時のような声をあげた。
『はっ…あ…ァ…ス…ラン』
「…っ、」
もうやめたい、
やめてあげたい
でもやめればユウコは…
『ね…アス、ラン…っど…したの?』
ーーどうしたの?
本当にね…。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう、僕の何がいけなかったんだろう、僕が何をしたの、ねえ神様
「……」
いくら考えてももうどうしようもない、
どうにもならないしどうにもできない。
もはや怒りや悲しみを通り越した理不尽さを飲み込むように僕はユウコの鎖骨へ口付けて、唇を少しずつ下へ滑らせた。